障害者への合理的配慮③盲ろう

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障害者への合理的配慮

『障害者の合理的配慮』の3回目は『盲ろう』です。
1回目は『聴覚障害(言語障害)』でした。
2回目は『視覚障害』でした。
『盲ろう』は、目と耳に障害がある人で、聴覚障害と視覚障害をあわせ持っている人です。
有名人では、ヘレン・ケラーが該当します。
彼女を想像すると全く見えず、全く聴こえない人が浮かびますが、聴覚障害者や視覚障害者の状態が様々なように、盲ろう者の状態も様々です。
僅かに残った機能があればそれを最大限に活かして生活しているので、必要とするサポートも異なります。

聴覚障害者や視覚障害者に比べると、盲ろう者は数が非常に少ないので出会う機会はあまりありません。
ちなみに私は聴覚障害者。
聴こえないので、健聴者の何倍も視覚情報に頼って生きています。
視覚障害者は逆に、音に頼っています。
そのどちらも使えないとなると、これはちょっと想像を絶します。
ただ、全盲+全聾(ろう)の人は少なく、どちらかの機能を少しでも残している人が多いので、目の前の盲ろう者の障害の状態に合わせて配慮することになります。

前回も書きましたが、2016年4月に『障害者差別解消法』が施行された時から「障害者への合理的配慮」という言葉を耳にすることが増えました。ところが 今でも「合理的配慮って何?」という人は多いです。
当初は行政機関のみ義務で、民間事業者は努力義務にとどまっていましたが、2024年4月からは民間の事業者も「障害者への合理的配慮」が義務化されているので、知らないでは済まされません。
とはいえ、初めて出会う障害者に突然配慮をと言われても戸惑ってしまいます。
私自身も自分の障害(聴覚)以外のことは知らないことだらけなので、障害ごとに何をすれば良いのか私自身も学ぼうと思い、内閣府がまとめた合理的配慮の事例集に目を通しています。

この内閣府の事例集は117頁あって、「合理的配慮」「環境の整備」「合理的配慮+環境の整備」の3パターンに分けて各障害への配慮の事例を掲載しています。
配慮の方法はこれだけではないし、障害の状態は皆バラバラで求めていることもイコールではないので、これを読めばすべて分かるわけではありませんが、どんな配慮ができるかを考える上での最初の一歩としてヒントになると思います。

今回はこの中から『盲ろう』の部分だけ抜粋してまとめます。
事例を読んでいると、聴覚障害や視覚障害への配慮から更に突っ込んだ内容が多いと思いました。
全盲且つ全聾レベルの人の場合は、通訳・介助者への配慮も必要になるなど、事例を読むことでいろいろな場面を想像することができます。
注意点としては、配慮する側が勝手に「これぐらいはできるだろう」と決めつけてはいけないということです。
この配慮で足りているのかを 当事者が分かる方法で確認するようにしてください。

これを読んでいる人の中には、全部の障害のことを一度に読みたいと思っている人もいるかもしれませんので、参考に内閣府の事例の頁のURLを記載しておきます。
  ↓
【合理的配慮事例集(内閣府)】https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/example.html
※上記URLの頁の下段にPDF形式とTXT形式のボタンがあります。

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■盲ろう者とは

配慮のことを学ぶ前に、盲ろう者のことを少し書きます。
「盲ろう」という言葉だけでは、どういう障害なのか分からない人もいると思うので。

【障害の状態】
障害の状態を大きく分けると下記の4つのタイプがあります。
1. 全盲・ろう(聾)…全く見えず、全く聞こえない状態
2. 全盲・難聴…全く見えず、少し聞こえる状態
3. 弱視・ろう…少し見えて、全く聞こえない状態
4. 弱視・難聴…少し見えて、少し聞こえる状態

「盲ろう」になる経緯も様々です。
*視覚障害があり、その後に聴覚障害を発症するケース。
*聴覚障害があり、その後に視覚障害を発症するケース。
*先天的(或いは乳幼児期)に視覚と聴覚の障害を発症しているケース。
*成人期以後に視覚と聴覚の障害を発症するケース。

視覚と聴覚の両方に重度の障害があると、自分の力だけで 情報を得たり、人と会話したり、外出・移動することが困難になり、様々な場面で大きな困難が生じます。
最も大きな問題は孤立です。人と物の両方が遮断されてしまうからです。
社会に参加するためには、情報入手やコミュニケーションの支援、また移動の介助などが不可欠になります。
盲ろう者のコミュニケーション手段については、視覚障害と聴覚障害のそれぞれの程度や、障害の発症時期によって一人ひとり異なります。

また、「全盲+全ろう」の盲ろう者が1人で出かけるのは難しいですが、介助者とともに施設や店舗を訪れることはあるので、その時は介助者や通訳者の位置などの配慮も必要になってきます。
多少でも見えたり聴こえたりする場合は、様々な用具を工夫して単独で行動するケースがあります。その場合は視覚に頼る場合もあれば、聴覚に頼る場合もあるので、聴覚障害視覚障害の配慮の記事も参考にしてください。

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■合理的配慮の提供事例(盲ろう)

(出典:内閣府 「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】」)
※文面は多少変えています。青文字は私個人の意見です。

【Ⅰ. 生活場面例:行政】

事例Ⅰ-①
会議に出席したときに、資料の事前送付がなく、また当日は点字化した資料が用意されていなかった。また、長時間の会議であったが、休憩時間が設けられていなかった。
(対応)資料を事前送付するとともに、資料の概要を点字化して会議で配布した。また、議事進行に当たっては、適時休憩を挟んだ。
※休憩時間無しの長時間の会議は健常者でも疲れます。目と耳に障害があるともっと疲れます。一番問題なのは、健常者はトイレなどでそっと退席して戻ることができますが、盲ろう者は目立たないように行動することが難しいことです。

事例Ⅰ-②
通訳・介助者を同行して会議に出席したが、通訳・介助者については、座席が決まっておらず配布資料も準備されていなかった。
(対応)盲ろう者と意思疎通しやすい位置に、通訳・介助者の座席と配布資料を準備するようにした。

事例Ⅰ-③
会議の終了予定時間が夜になっており負担が大きい。また、介助者は障害者を送迎してから帰宅することになるので、更に遅い時間になってしまう。
(対応)夕方までに会議が終了するよう開催時間を変更した。

【Ⅱ. 生活場面例:サービス(小売店、飲食店など)】

事例Ⅱ-①
飲食店に入ったが、混雑状況や空席状況が分からない。店員が声をかけてくれても聞き取れないことがあり困ってしまう。
(対応)店員がそばまで行き、手のひらに「○」(空席がある)」か「×」(空席がない)かを指で書いてお知らせした。また、空席がある場合には、店員がそこまで案内した。

事例Ⅱ-②
受付窓口などでは、名前を呼ばれたり番号を電光掲示板に表示されたりしても分からない。
(対応)そばまで行って直接合図して受付窓口へ誘導した。

事例Ⅱ-③
難聴のため筆談をお願いしたが、弱視でもあるので細いペンや小さな文字では読み取りづらい。
(対応)太いペンで大きな文字を書いて筆談を行った。

事例Ⅱ-④
聴覚障害者向けのイベントに参加したところ手話通訳者が配置されていたが、弱視でもあるので手話が読み取りづらい。
(対応)手話通訳者の直近の位置に配席した。

事例Ⅱ-⑤
聴覚障害者向けのイベントに参加したところ舞台上のスクリーンに要約筆記が表示されていたが、弱視でもあるのでスクリーン上の文字を読み取りづらい。
(対応)本人が所持していたパソコンと要約筆記者のパソコンをつなぎ、手元のモニターにも要約筆記が表示されるようにした。

事例Ⅱ-⑥
聴覚障害者団体の活動に参加しているのだが、視覚障害向けの配慮がなく、会報誌やイベント案内などの配布物を読むことができない。
(対応)必要に応じて点字や拡大文字を用いた配布物を作成したほか、配布物の電子データを提供した。

事例Ⅱ-⑦
電話リレーサービス利用に関する問合せをしようとしたが、ホームページからメールフォームに入力する方法となっており、盲ろう者は使うことができない。
(対応)問合せを電子メールでも受け付けた。

事例Ⅱ-⑧
飲食店で店員が水を運んできたことに気付かず、手を出してこぼしてしまった。
(対応)コップの位置が分かるように、店員が水の入ったコップをお客の手に軽く触れて置くようにした。

事例Ⅱ-⑨
一人でもスポーツジムを利用できるように施設内を案内誘導してほしい。
(対応)盲ろう者が一人で利用する際には、スタッフが手のひらに書くこと(手書き文字)でコミュニケーションをとりながら、スポーツジム内を案内誘導するようにした。

事例Ⅱ-⑩
スーパーのレジに並びたいが、足元にあるレジ待ちの位置を示す印が見づらくて並ぶことができない。
(対応)店員がレジまで誘導した。次回以降の来店時も、店員が見かけたときに近くまで行ってレジまで誘導するようにした。

【Ⅲ. 生活場面例:教育】

事例Ⅲ-①
入試(面接、小論文)の際に、通訳・介助者の派遣制度を利用したい。
(対応)面接では、事前に面接方法や会場レイアウトなどについて打合せを行ってから実施した。小論文では、通訳・介助者が同席したほか、時間延長やパソコン使用許可などの配慮を行った。

事例Ⅲ-②
学校の授業を受けるときに、弱視難聴のため黒板が見えづらく、声も聞こえづらい。
(対応)黒板が見えやすく、音声が聞き取りやすい位置に座れるよう座席を確保した。

【Ⅳ. 生活場面例:新型コロナウイルス感染症対応】

※コロナ禍の行動制限で、困ったことになった障害者は多かったです。特に人との接触に頼っている盲ろう者の孤立の問題はニュースにもなっていました。感染症は予告があって流行るものではないので、突然流行った時に慌てないように普段から対応策は考えておきたいものです。

事例Ⅳ-①
自治体のホームページにある相談窓口の連絡先が電話とFAX番号のみの掲載なので、自力で相談窓口とやり取りができない。
(対応)通訳・介助員を介して電話相談をした結果、本人と相談窓口の担当者がメールでやり取りをすることにした。

【Ⅴ. 生活場面例:その他】

事例Ⅴ-①
障害者スポーツ大会に参加するのだが、弱視難聴の盲ろう者なので、スタート合図が分かりにくい。
(対応)スタート合図者の一番近くのレーンに配置し、スタート合図はピストル音と光の両方を使って行った。

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■環境の整備事例(盲ろう)

(出典:内閣府 「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】」)
※文面は多少変えています。青文字は私個人の意見です。

【Ⅰ. 生活場面例:行政】

事例Ⅰ-①
会議の際に、指点字通訳を受けながら会議内容も記録できるよう人員配置を行った例。
(事例)指点字通訳を行っている間は通訳・介助者の手がふさがってしまうことから、会議内容を記録するために、事務局において、通訳・介助者とは別に記録担当者を配置するようにした。

事例Ⅰ-②
弱視・ろうの盲ろう者がフォーラムで聴覚障害者向けの手話を見やすいよう工夫した例。
(事例)フォーラムの参加申込書に配慮してほしいことを記載する欄を設け、事前の申請内容に基づき手話通訳者のすぐ前に座席を設けるなどの配慮を行えるようにした。

【Ⅱ. 生活場面例:サービス(小売店、飲食店など)】

事例Ⅱ-①
保険契約の内容の代読を希望された場合に円滑に対応できるよう工夫した例。
(事例)代読に関するルールをマニュアルとして整備し、マニュアルに基づいて対応した。

事例Ⅱ-②
盲導犬を利用している盲ろう者がスポーツジムを利用しやすいよう工夫した例。
(事例)事務室内に盲導犬のゲージを設置し、利用時にスタッフが盲導犬を預かるようにした。

【Ⅲ. 生活場面例:教育】

事例Ⅲ-①
盲ろうの生徒が校内を単独で安全に移動ができるよう校内を整備した例。
(事例)点字ブロックの補修や講義棟に自動ドアを設置した。

事例Ⅲ-②
電車の乗降で携帯スロープによる支援が必要となるが、入学予定の学校の最寄りが無人駅で困っている。
(事例)関係者で話し合った結果、鉄道会社が携帯スロープを無人駅に常時配備することとした。
※これは車掌さんが対応するということだろうか? 介助者がいること前提だろうか? 他の障害者も使えるようにしたのだろうか? これだけの記述では分からないが、乗降にスロープが必要な人は他にもいることを念頭に対策できるのがベストであろう。

【Ⅳ. 生活場面例:交通・移動】

事例Ⅳ-①
視覚障害や色弱のある盲ろう者が信号機を識別できるよう工夫した例。
(事例)信号が赤か青かを振動でも知らせるように、触知式信号補助装置(信号が青になると振動するポール型の装置)を設置した。

以上が内閣府の事例です。

『盲ろう』のところに書かれている対応事例は少なかったのですが、これは多分、状態の個人差が大きいため、視覚障害や聴覚障害の対応事例と重複することが多いからだと思います。
盲ろう者は視覚と聴覚の両方に障害を持っていますが、残っている機能をフルに活用して生活している人も多いので、視覚障害や聴覚障害での対応例の中にも使える事例があります
そのまま使える場合もあれば、組み合わせることで対応可能なこともありますので、こちらも参考にしてください。
  ↓
『聴覚障害(言語障害)の合理的配慮』
『視覚障害の合理的配慮』

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