『障害者への合理的配慮』の6回目は「知的障害」についてです。
2024年4月に民間の事業者も「障害者への合理的配慮」が義務となりました。
実施からすでに半年以上が経過しましたが、今も合理的配慮を知らない人は多いようです。
合理的配慮の言葉を耳にするようになったのは『障害者差別解消法』が施行された2016年4月からですが、2024年3月まで配慮が義務だったのは行政機関のみで、民間の事業者は努力義務にとどまっていたため知らない人が多いようです。
しかし今は民間も義務なので、働いていれば誰でも配慮せねばならない場面に遭遇する可能性はあり、そんなの知らないでは済まされなくなりました。
とはいえ、障害の知識がなければ、配慮と言われても何をどうすれば・・・・・・と戸惑います。
私も自分の障害(聴覚)以外のことは知らないことだらけ。
なので、障害ごとに何をすれば良いのか私自身も学ぶために、内閣府がまとめた合理的配慮の事例集に目を通しています。
毎回説明していますが、この内閣府の事例集は117頁あって、「合理的配慮」「環境の整備」「合理的配慮+環境の整備」の3パターンに分けて各障害への配慮の事例を掲載しています。
配慮の方法はこれだけではないし、障害の状態は皆バラバラで求めていることもイコールではないので、これを読めばすべて分かるというものではありませんが、どんな配慮ができるかを考える上での最初の一歩としてヒントになると思います。
今回は「知的障害」を抜粋しました。
内閣府の資料のまとめについては、この記事が最終回です。
これまでにまとめた項目は以下です。
【障害者への合理的配慮】
*第1回:聴覚障害(言語障害)
*第2回:視覚障害
*第3回:盲ろう
*第4回:肢体不自由
*第5回:内部障害、難病に起因する障害
内閣府の資料の抜粋のまとめは今回で最後ですが、今後も合理的配慮についてまとめたら追加していきたいと思っています。
参考にした内閣府の事例集掲載の頁のURLを貼っておきます。
【合理的配慮事例集(内閣府)】
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/example.html
※上記URLの頁の下段にPDF形式とTXT形式のボタンがあります。
■知的障害とは
知的障害の名称はよく耳にしますが、勝手な想像で 偏ったイメージを鵜呑みにしている人も多いので、知的障害について簡単に説明しておきます。
知的障害について文部科学省では以下のように説明しています。
知的障害とは、一般に、同年齢の子供と比べて、「認知や言語などにかかわる知的機能」の発達に遅れが認められ、「他人との意思の交換、日常生活や社会生活、安全、仕事、余暇利用などについての適応能力」も不十分であり、特別な支援や配慮が必要な状態とされています。また、その状態は、環境的・社会的条件で変わり得る可能性があると言われています。
厚生労働省では以下のように定義しています。
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義した。
なお、知的障害であるかどうかの判断基準は、以下によった。
次の (a) 及び (b) のいずれにも該当するものを知的障害とする。
(a)「知的機能の障害」について標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの。
(b)「日常生活能力」について日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準(別記1)の a, b, c, d のいずれかに該当するもの。
知的障害といっても状態はそれこそバラバラです。
上記の厚生労働省の定義にあるように、一般に知能検査の結果による「知能水準」と「日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、移動など)の到達水準」を基に判定して「軽度」「中等度」「重度」「最重度」に分けています。
あくまで目安として、それぞれの段階的な特徴を簡単に述べると以下の通りです。
【軽度】IQ 51~70
・身の回りの処理は殆ど可能。
・簡単な読み書きや計算はほぼ可能。
・言葉や簡単な文通も可能。
・単純な作業可能。
【中等度】IQ 36~50
・身の回りの処理は可能。
・簡単な読み書きや計算は部分的に可能。
・言葉や簡単な文通は可能。
・単純な作業可能。
【重度】IQ 21~35
・身の回りの処理は部分的に可能。
・簡単な読み書きや計算は殆ど不可能。
・言葉はやや可能。
・作業のうち簡単な手伝いやお使いは可能。
【最重度】IQ 20以下
・身の回りの処理は殆ど不可能。
・読み書きや計算は不可能。
・言葉も殆ど不可能。
・簡単な手伝いなどの作業も不可能。
上記の分類の他に、境界知能というのもあります。
IQの一般的な平均値は100で、人口の3分の2ほどがIQ85~115の間に収まります。
平均範囲については、IQ85~115を平均範囲と考える場合と、IQ90~110を平均範囲と考える場合があるようですが、ここでは詳細な区分の話はあまり関係ないので、平均範囲はIQ85以上と考えて読んでください。
上記の分類ではIQ70以下が障害者でした。
平均範囲の下限がIQ85なので、数値を見比べれば 狭間に該当する人がいることが分かると思います。
この平均範囲と障害の狭間の知能を境界知能と言います。
この境界知能に該当する人は障害者と認めてもらえないけれど、一般の健常者と同じではありません。
平均範囲を下回っているということは、一般に“これは誰でもできる”と思われていることの中に難しいことがあるということです。
合理的配慮は手帳の有無に左右されるのではありません。
手帳を持っていない境界知能の人は 一見障害があることが分かりにくいかもしれませんが、努力で埋めることのできない不自由を抱えているのですから、それに対する配慮は必要です。
私達は見た目で判断しがちですが、見た目では分からない障害もあるので、困っている人には配慮するという意識を持って普段から人と接するようにしたいと思います。
また、事例集を読むと 知的障害の場合は 本人だけではなく障害児とともに行動する家族をフォローするという場面もあることに気付かされます。
障害の特性はそれこそ千差万別なので、その都度臨機応変に対応できるように心がけたいと思います。
■合理的配慮の提供事例【知的障害】
(出典:内閣府 「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】」)
【Ⅰ. 生活場面例:行政】
事例Ⅰ-①
庁舎窓口に設置している職員配置図について、漢字が読めないので振り仮名を振ってほしい。
(対応)職員配置図に振り仮名を振った。
事例Ⅰ-②
知的障害があるので、市からの文書を理解することが難しい。要約版の作成や簡易な言葉の使用、ルビを振る等の対応をしてほしい。
(対応)市から、ルビ付き文書を送付した。
事例Ⅰ-③
役所が公表した調査報告書を読みたいのだが、平仮名しか読むことができないので、振り仮名を付けてほしい。
(対応)ページ数の多い調査報告書であるため、要点を抜粋した報告書の概要を作成し振り仮名を付すこととした。
事例Ⅰ-④
選挙の投票を行う際に、次々と他の投票者が来ると、急がされたような気持ちになってパニックを起こしてしまう。
(対応)他の投票者を止めることはできないが、他の投票者が少ないと予想される時間帯を前もってお知らせした。また、実際に来場したときには、他の投票者に間隔を空けてほしい旨をお願いした。
事例Ⅰ-⑤
図書館において、知的障害のある子供が、発声やこだわりのある行動をしてしまう。
(対応)図書館の職員が母親から、子供の特性やコミュニケーションの方法等について聞き取り、落ち着かない様子のときは個室に誘導するなどの対応をした。
【Ⅱ. 生活場面例:サービス(小売店、飲食店など)】
事例Ⅱ-①
契約時の要望などを自分で説明することが難しいため、同行する介助者から話を聞いてほしい。
(対応)個人情報にも関わることなので通常は本人から聞くことになっているが、必要に応じて介助者から説明を聞くこととした。
事例Ⅱ-②
初めて行く歯科医院だと、極度に施術を怖がってしまう。
(対応)事前に相談があったので、施術室の椅子に座って歯磨きの仕方に関する話をするなど、施術をしないで場に慣れるだけの機会を設けた。
事例Ⅱ-③
子供が買物の会計時に待つことができず、動き回ったり騒いだりしてしまう。
(対応)会計場所に椅子を持って行き、「ここに座って待っていようか」と声をかけ、親の会計が終わるまで話し相手となった。いつも同じ場所に椅子を置くようにしたところ、その後は会計が終わるまで1人で椅子に座って待っていられるようになった。
事例Ⅱ-④
レジでの会計の際に持ち金が不足しており買いたいものが買えないときは、不満が折り合えるまで会計を待ってほしい。
(対応)家族があきらめるように説得していたが、順番を待っている他のお客から「早くしてくれ」と催促があったため、事情を説明した上で他のお客は別のレジで対応した。
【Ⅲ. 生活場面例:教育】
事例Ⅲ-①
学習活動の内容や流れを理解することが難しく、何をやるのか、いつ終わるのかが明確に示されていないと、不安定になってしまい、学習活動への参加が難しくなる。
(対応)本人の理解度に合わせて、実物や写真、シンボルや絵などで活動予定を示した。
事例Ⅲ-②
学校からの連絡プリントに記載されたカタカナや漢字の読みが難しいため、内容を理解することが困難である。
(対応)プリントのカタカナや漢字に平仮名でルビを振り、読み取りが可能なよう対応した。
事例Ⅲ-③
言葉だけでの指示だと、内容を十分に理解できず混乱してしまうことがある。
(対応)身振り手振りやコミュニケーションボードなどの視覚的な支援も用いて内容を伝えるようにした。
事例Ⅲ-④
咀嚼することが苦手であり、通常の給食では喉に詰まらせてしまったり、誤嚥をしてしまう可能性がある。
(対応)大きな食材については、小さく切ったりミキサーで細かくしたりして、食べやすいサイズに加工した。
事例Ⅲ-⑤
触覚に過敏さがあり、給食で使うステンレスの食器が使用できず、手づかみで食べようとする。
(対応)シリコン製やポリプロピレン製など、学校にある素材の食器のうちから受け入れやすい触感の食器を用いることとした。
事例Ⅲ-⑥
多くの人が集まる場が苦手で、集会活動や儀式的行事に参加することが難しい。
(対応)集団から少し離れた場所で本人に負担がないような場所に席を用意したほか、聴覚に過敏があるのであれば、イヤーマフなどを用いることとした。
事例Ⅲ-⑦
聴覚に過敏さがあり、運動会のピストル音が聞こえると、パニックを起こしてしまうかもしれない。
(対応)ピストルは使用せず、代わりに笛・ブザー音・手旗などによってスタートの合図をした。
事例Ⅲ-⑧
卒業式での証書授与の際に、どこで立ち止まり、どこを歩くのかを理解するのが難しい。
(対応)会場の床に足形やテープなどで動線と目的の場所を示すことで、どこを歩くのかを理解しやすいようにした。
事例Ⅲ-⑨
外部で行われる体験学習に参加したいが、学校内と同じように配慮をしてほしい。
(対応)体験学習先と内容や所要時間などについて打合せをし、外部でも同じような配慮を提供できるように調整した。
【Ⅳ. 生活場面例:医療・福祉】
事例Ⅳ-①
超音波検査を受ける際に、混乱して検査室に移動できない。
(対応)医師がポータブルの検査機器を待合室に持って行き、待合室で検査を行うことで、落ち着いて超音波検査を受けることができた。
【Ⅴ. 生活場面例:交通・移動】
事例Ⅴ-①
パニック障害があるため、必ず介助者の隣に座りたい。
(対応)ほぼ満席になっており隣り合った空席がなかったが、他の乗客の御了解を得て座席を変更し、隣り合って座れるよう調整した。
【Ⅵ. 生活場面例.新型コロナウイルス感染症対応】
事例Ⅵ-①
施設見学をしたいのだが、周囲の状況を理解することが難しく、マスクを長時間着用することができない。
(対応)マスク着用の代替として、フェイスシールドやハンカチの使用を認めることとした。
■環境の整備事例【知的障害】
(出典:内閣府 「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】」)
【Ⅰ. 生活場面例:教育】
事例Ⅰ-①
発語がなく、コミュニケーションでは実物や指差し、発声で要求や援助を伝えることができるが明確に相手に伝わらないことが多い障害がある生徒と円滑なコミュニケーションができるよう機器の導入を行った例。
(事例)本人の理解度や操作能力に合わせて選べるよう、絵カードやタブレット端末、音声ペンなどの補助手段を導入した。
事例Ⅰ-②
危険性の予知が難しく、校舎の窓から外へ出ようとすることがある生徒がいる場合に備え校舎の整備を行った例。
(事例)生徒の落下を防ぐため、やや高めの窓手すりや柵を設置した。
事例Ⅰ-③
時間の見通しを視覚的に分かるようにするための工夫を行った例。
(事例)学校の予算で時間の流れが視覚的に分かるタイマーを購入し各教室に設置した。
【Ⅱ. 生活場面例:災害等】
事例Ⅱ-①
災害時において、日常的に不安感やパニックを起こす障害がある方を誘導できるよう工夫した例。
(事例)避難場所や避難する際の注意などを分かりやすく伝えるための視覚的な手がかりを用意した。また、学校内の避難経路は分かりやすいように、生徒の目線の位置に目印を設置し、避難訓練の際もそれを手がかりにして避難するようにした。
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内閣府の『合理的配慮の事例集』のまとめは、これで終わりです。
事例集で取り扱った障害は一部で、配慮が必要な障害はこの他にも沢山あります。
また事例で取り上げた障害への配慮も全てが書かれているわけではありません。
障害は一人一人抱えている問題が異なります。
当然、本人が求めている配慮も違うので、当事者の声に耳を傾けるようにしましょう。
私も自分の障害では配慮を求める側になりますが、それ以外は配慮する側になるので、知らないことはどんどん調べて実践できるようになりたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「障害者への合理的配慮」の実践、頑張りましょう!
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他の障害については下記の記事を参考にしてください。
障害者への合理的配慮
*第1回:聴覚障害(言語障害)
*第2回:視覚障害
*第3回:盲ろう
*第4回:肢体不自由
*第5回:内部障害・難病に起因する障害
*第6回:知的障害(この記事)