2021年6月に医療用及び一般用のマスクを対象としたJIS(日本産業規格)が制定されました。
それまで日本には公的な規格・基準は設けられていませんでした。
制定に至った背景には、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大によるマスク不足をきっかけに、海外マスクの輸入増加や異業種メーカーの参入など、マスクを取り巻く環境が変わったことが影響しています。
国内の国家基準が出来たことで、これからはマスクのことがよく分からない消費者でも安心して選べるようになります。但し、制定されたばかりなので、現在はまだ申請中のマスクが多く、認証取得製品が市場に出回るのはこれからとなります。
この記事では、JIS規格の内容と、それに絡めて不織布マスクの選び方を説明します。
もしも 細かい話は面倒だと思うならば「■ウイルスや細菌(バクテリア)の大きさとマスクの性能の見方」から読んでください。
ちなみに今回はJISの話をしますが、JIS以外にも信頼できる国際規格はあります。
例えば、米国のATSMインターナショナルが医療用マスクの条件を定めていますが、日本でもATSM規格に基づいて製造された医療用マスクは多いです。
■JISが求める基本性能
今回制定されたマスクは、医療用及び一般用マスク(JIS T9001)と、感染対策医療用マスク(JIS T9002)です。
【JIS T9001(医療用及び一般用マスクの性能用件)】
「JIS T9001」には一般用マスクと医療用マスクがあります。
●一般用マスク
一般消費者が使用するマスクです。
主な防御物質は、微粒子状物質(PM2.5等)、バクテリアを含む飛沫、ウイルスを含む飛沫、花粉粒子などで、体内への侵入を防御するとともに、バクテリアなどを含む飛沫の飛散を防ぐことを目的としています。
●医療用マスク(サージカルマスク)
主に医療関係者の着用を想定したマスクです。
サージカルマスクとも呼ばれています。
医療用マスクは、微小粒子、バクテリアを含む飛沫、ウイルスを含む飛沫の他、患者の体液が体内に侵入することも防御。また同時にバクテリアなどを含む飛沫の飛散の防止も目的としているマスクで、捕集機能と人工血液バリア性について、3つのクラス(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)に分類されています。
【JIS T9002(感染対策医療用マスクの性能用件)】
このマスクは感染対策に従事する医療従事者が使用するマスクです。
人工血液バリア性等の付加性能の有無で2つのタイプ(Ⅰ・Ⅱ)に分類されています。
※労働安全衛生法での防じんマスク用途とは別。
これは医療従事者向けで、一般消費者が使うマスクではないので、ここでは「JIS T9002」の説明は省きます。
■JISの品質基準の項目
JISの基準を見る前に、各項目の説明を簡単にしておきます。
最近は、マスクの箱に PFE99%、BFE99%、VFE99%などと表示された物が多いので、すでにご存じの方も多いと思います。表示の意味をご存じの方は読み飛ばしてください。
【PFE(微小粒子捕集効率)】
PFE(Particle Filtration Efficiency)は、空気中を浮遊する微小粒子の捕集性能を表します。
数値が大きいほど遮断効果は高いです。
【BFE(バクテリア飛沫捕集効率)】
BFE(Bacterial Filtration Efficiency)は、咳、くしゃみ、会話などの際に生じる飛沫のうち、バクテリア(細菌)を含むエアロゾルを捕集する性能です。
数値が大きいほど遮断効果は高いです。
【VFE(ウイルス飛まつ捕集効率)】
VFE(Viral Filtration Efficiency)は、咳、くしゃみ、会話などの際に生じる飛沫のうち、ウイルスを含むエアロゾルを捕集する性能です。
数値が大きいほど遮断効果は高いです。
【花粉粒子捕集効率】
空気中の花粉粒子を捕集する性能です。
数値が大きいほど遮断効果は高いです。
【圧力損失】
息のしやすさ(通気性)を表す指標です。
マスクを通して一定流量で吸引したときのマスク表裏における圧力差を試験面積で除した値で示されます。
数値が小さいほど呼吸がしやすいと言えます。
【人工血液バリア性】
手術などの医療従事中に、患者から飛散してマスクに付着した体液が裏面まで浸透することを防ぐ性能。
数値が大きいほど浸透しにくいということです。
■JIS T9001の品質基準
JIS T9001の医療用マスクと一般用マスクの品質基準を表にしました。
医療用マスクは、PFE、BFE、VFEのいずれも95%以上、クラスⅡ・Ⅲは98%以上が要件となります。
※試験方法についての記載は省いています。
■ウイルスや細菌(バクテリア)の大きさとマスクの性能の見方
ここからは一般的な不織布マスクの選び方です。
「PFE」「BFE」「VFE」の話は上記でしましたが、これらは試験方法が異なり、試験で使う粒子の大きさも異なります。
ウイルスや細菌(バクテリア)の大きさについての知識が皆無だと理解しにくいと思うので、ウイルス等の大きさについて簡単に説明しておきます。
【ウイスルや細菌などの大きさ】
マスクは、風邪やウイルス対策の他に、花粉対策やPM2.5対策など、様々な目的で使われています。
マスクの性能表示では㎛(マイクロメートル)の単位が使われていますが、1㎛=0.001mmです。
私達は肉眼で見えない小さな世界のことには無頓着になりがちですが、対象物による大きさにはかなりの差があります。
例を挙げますと、
*花粉:約20~45㎛
*黄砂:約3~4㎛
*飛沫:5 ㎛ 以上、エアロゾル:約2~5㎛
*細菌(バクテリア):約1~5㎛
*PM2.5:2.5㎛以下
*インフルエンザウイルス:約0.1㎛
*新型コロナウイルス(COVID-19):約0.1㎛
ウイルスは0.1㎛未満のものも多く、非常に小さいです。
なので花粉対策に特化したマスクでウイルスの感染予防が厳しいことは想像できると思います。
すなわち、不織布マスクだったら何でも安心というわけではないのです。
また逆に、小さな粒子の遮断率が高くなるほど息苦しさは増すので、花粉のみの対策で構わない時に ウイルス遮断率まで意識する必要はないと言えます。
マスクは用途に合わせて、性能をしっかりチェックして選びたいものです。
【マスクの性能・選び方】
現在店頭に並んでいるマスクの多くは、箱にPFE99%、BFE99%、VFE99%など、試験結果の数値が表示されています。
JISやASTMなどの規格名(注:この他にも信頼できる規格有り)が表記されていない場合は、メーカー独自の試験結果ということになりますが、性能を確認するうえでの目安にはなると思います。
一般に、PFEは 0.1~0.3㎛の小さな粒子の遮断率なので、インフルエンザや新型コロナウイルス等のウイルス対策やPM2.5対策に適すかの指標になります。
BFEは 3.0㎛程度の少し大きい粒子を対象にしているので、風邪や花粉対策の指標になります。
VFEは 0.1~5.0㎛で、風邪やウイルスの飛沫対策の指標になります。
ちなみに試験で使った粒子のサイズを記載している製品と、記載していない製品がありますが、記載があるとやはり安心します。一般に記載で目にすることが多い粒子サイズは PFEは0.1㎛、BFEは3㎛です。VFEは表示自体がない製品も多い印象です。
今後はJISの認証を取得した製品が出て来ることになりますが、JISの表記があると、定められた試験方法で、定められた基準以上の結果を出している証明になるので安心です。
但し、JISマークが無いから性能が低いというわけではありません。
メーカーが独自に行っている試験の中には、JISより厳しいものもあれば、またJISでは規定していない着け心地などの品質を追求した製品もあります。
また、JISの認証も、一般用と医療用では基準が全く違うので、そのことも知っておく必要があります。
■最後に
近年は温暖化で環境が急激に変化しており、未知のウイルスへの警戒感も年々高まっています。
新型コロナウイルスが収まったとしても、マスクと縁が切れることはなさそうです。
ちなみに、不織布マスクの他に、布マスクやウレタンマスクなどもありますが、布マスクやウレタンマスクは飛沫の吐き出しにはある程度の効果は見込めますが、吸い込みの方は不織布マスクの半分の遮断率になるので、自分の身を守るためにはやはり不織布マスクがおすすめです。
また、不織布マスクも用途によって種類があるので、自分の用途にあった性能のマスクを選ぶ必要があります。
例えば JISの場合、医療用は「PFE、BFE、VFEのいずれも95%以上」という条件に当てはまりますが、一般用マスクの場合は「PFE、BFE、VFE 、花粉粒子捕集効率の少なくとも1つの機能は適合」という条件なので、マスクを購入する時は必ず用途を確認しましょう。
今回は不織布マスクの素材の性能を中心に説明しましたが、マスクを選ぶ時に最も重要なのはマスクのサイズが顔に合っているかどうかです。
顔にフィットしていなければ、どれだけ素材の性能が良くても隙間からダダ洩れなので、普段から自分に合ったマスクを探しておくと、いざという時に安心です。