ナンチョーな私の気まぐれ日記(30)聴覚障害の認定基準について思うこと

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ナンチョーな私の気まぐれ日記

今回は、軽度から重度手前まで それぞれの聴こえを 時間をかけて味わってきた私が感じる聴覚障害の認定基準の不思議について語りたいと思います。
これまで語ってきたこととも重複しますが、これは伝わるまで何度でも話したいことなので、ぜひ読んで考えていただけたら嬉しいです。

この社会には障害者と言われる人達がいます。
障害者になりたくてなった人は多分いません。健康が一番ですから。
私も障害者になりたくはなかったけど、難聴にも限界があって、低下し続ければ普通に働けなくなる日がやって来ます。
私の場合は、そのラインが障害認定基準前にやって来ました。
障害者には認定してもらえないけど、配慮が必要な状態です。
この時期は、会社をクビになったらどうしようと怯える毎日でした。
なにせ 聴こえなくても世の中の扱いは健常者。
障害者雇用という救いはありません。
一般雇用で新たな職を求めて面接しても、聴こえなければ面接で失敗するのは目に見えています。
会話が成立しない状態で、健常者相手に勝ち抜く自信はありません。
補聴器では補えない状態まで追い詰められ、本人は障害者だと自覚している状態なのに、健常者と同じ条件でしか生きる選択肢がなかった この時期が、精神的には一番キツかったです。

難聴は、健聴者が考えるほど単純なものではありません
耳が健康な人は 難聴を音量で判断したがるけれど、難聴者の最大の悩みは語音明瞭度の方です。
音量はある程度補聴器でカバーできるけど、語音明瞭度は無理だからです。
私が障害認定基準に満たない段階で悲鳴を上げたのは、音量の不足に加えて語音明瞭度(発音の聞き取り)が低かったせいです。
難聴による音の崩れは個人差も大きいし、厳密な検査も難しいので基準を設けにくいのかもしれませんが、今の制度はあまりに語音明瞭度を軽く見過ぎていると思います。

難聴者から見ると、今の聴覚障害の等級は突っ込みどころ満載です。
ということで、今回は 障害等級の条件は見直すべきとの思いを込めて書きます。

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■聴覚障害の「等級別の障害程度」

話の前に、まず今の聴覚障害の等級の条件を簡単に説明します。
過去記事でも説明したことがありますが、簡単におさらいします。
身体障害者手帳の等級は障害によって1~7級までありますが、聴覚障害は2~6級までしかなく、なぜか5級もありません
2級、3級、4級、6級の4つしかないということです。

各等級の条件については、下に「障害程度等級表」を貼っておくのでこちらを参考にしてください。

聴覚障害に1級はありませんが、たまに1級を持っている人がいます。
これは他にも障害を持っているからで、聴覚障害単独で1級はありません
1級を持っている人で多いのは、聴覚障害2級と言語機能障害3級(言語機能障害には3級と4級しかない)の組み合わせです。

私はずっと完全失聴している人が1級と思っていたので最初は1級が無いと聞いて驚きましたが、目など他の部位の障害者の苦労を見ていると、聴覚障害に1級が無いのは それなりに納得しています。

不納得なのは、6級取得までのハードルの高さです。
そして なぜ5級が無いのかも疑問です。
6級と4級でサポートに大きな違いはないので、今の設定基準に5級が欲しいわけではないのですが、5級を抜いた意図がよく分かりません。
聴覚障害を段階的に体験している私の感覚では、前述のように6級のハードルが高過ぎるので、現状の単純な音量での区分けなら、60dB以上を6級とし、今の6級(70dB台)を5級にしたらちょうど良いのにと思ってしまいます。
そうでないとサポートが必要な人が見捨てられることになるからです。

ただ、60dB台の聴力は音量の問題だけなら、まだ頑張れるかもしれません。
問題は語音明瞭度
言葉の不明瞭さだけは補聴器ではカバーしきれません
個人的には音量と語音明瞭度の両方を組み合わせて障害程度は考えるべきだと思っています。
取りあえず、現在の基準にも 障害4級の欄に語音明瞭度(両耳50%以下)の条件も入ってはいます。
だけど、実際に大きな影響が出ているのにも関わらず、語音明瞭度が入っているのはこの1ヶ所だけで、なぜか6級には語音明瞭度の条件がありません。
これは難聴者の多くが 音量の低下だけでなく語音明瞭度も一緒に低下する感音難聴なのに そのことを無視しているとしか考えられません。
この語音明瞭度の影響を考慮しないのであれば、障害のラインは60dB(最低でも65dB)まで引き下げるべきでしょう。
そもそも普通の会話の声が60dBなのに、それが聴こえない耳を健常と捉えることも疑問です。

※難聴のことや障害基準に詳しくない人は、dB(デシベル)の話が理解しにくいかもしれません。聴力の話に出てくる「デシベル」について知りたい方は過去記事を読んでください。
デシベル(dB)は絶対値ではなく倍率

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■身体障害者手帳の基準となる平均聴力

ここで話す内容は、福祉上の平均聴力の話です。
下記に簡単に説明しますが、詳細を知りたい方はこちらの過去記事を読んでください。
オージオグラムの見方と、身体障害者手帳の基準となる平均聴力の算出方法

平均聴力について 簡単に説明すると、聴力検査で測定するのは125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、8000Hzの7種類だけですが、平均値は全部の平均ではありません。
いろいろあるのですが、日本の障害等級の選別に使われる平均値は4分法で、書式は下記の通りです。
(500 Hz + 1000 Hz x 2 + 2000 Hz) / 4
なぜ 500~2000Hzという狭い範囲に絞っているかというと、それは『話し言葉でよく使われている音の高さに該当する』からだそうです。
発音を構成するのに必要な周波数はこの範囲だけではないのになぜこんなに狭いのかと、ここにも不思議を感じました。
個人的には4000Hzは含めるべきと思っています。
日本語の50音の発音にも混じっているのでこの4000Hzが聴こえないと聴こえる発音が狂うし、英語などは4000Hzをよく使っているので英語が必要な今の時代、この周波数を無視するのはどうなのかなと思ったりします。
また、日本語は周波数が低めなので、低めの周波数(250Hz)も入れた方が妥当かもしれません。

ちなみに周波数毎の聴こえの差が大きい私は、声は聴こえるけど全く違う発音に聴こえる体験をたっぷりしてきました。
周波数のバランスの崩れが 聴こえに大きな影響を与えるのは確かで、本来はそういったことも考慮すべきなのかもしれませんが、さすがにバランスの定義付けまでは難しいだろうと思います。

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■障害等級で使う語音明瞭度とは

難聴の辛さは、音量だけではないことは最初に述べました。
聴力検査には音の聴こえを測定する「純音聴力検査」のほかに、言葉の聞き取り状態を測定する「語音聴力検査」というのがあります。
検査内容のことを知りたい方は過去記事を参考にしてください。
聴力検査にはどのような種類があるのか?(聴力検査の種類)

簡単に説明すると、防音室でヘッドホンを装着して、そこから流れてくる「あ」とか「き」などの50音を聴こえたままに答える簡単な検査です。

音量を変えて数回測り、その中で一番正答率が高かった数字が障害等級の判定に使われる数字となります。

ここで疑問が湧きます。
防音室でヘッドホンをして耳元で音を聴く
そんな静かな環境は日常生活では皆無です。
普通の会話の声は60dB位ですが、60dBの音が聴こえない人や正答率が低い人は音量を上げて測定します。
聴力60dB台の時に、90dB(怒鳴り声や騒々しい工場の音ぐらい)まで音を上げられたことがありますが、これは強烈な過敏症状が出て聴くことさえ出来ませんでした。(※過敏症状と書いたのは、感音難聴の場合、壊れてしまっている音があって、音量を上げると壊れた音をそのまま増幅することになるので、健康な耳の煩いとは違う拷問級の苦痛が出るのです)
正答率が低いと、限界まで音を上げて測るわけですね。(私の場合はそうでした)
そうやって何回か検査し、その中で一番良かった数字を結果とします。

この数字は「補聴器をしても これ以上の聞き取り効果は期待できませんよ」の目安にはなりますが、日常の不便の目安にはなりません
なぜなら、『防音室の静かな環境+耳元(ヘッドホン)で音を聴く+大音量』というシチュエーションは、普段の生活の中には無いからです。

もちろん普段は補聴器を装着しています。
だけど補聴器は単独の人の声だけを拾うわけではなく、周りの音も拾うので、やはり雑音混じりの環境での会話になります。
健康な耳なら『カクテルパーティ効果(煩い環境でも名前を呼ばれたら分かるなど)』でかなりざわついた環境でも聞きたい人の声を拾うことができますが、その機能を失っている難聴者は、普段の生活での聞き取りは健聴者より遥かに不利なのです。
それにも関わらず、防音室で普段の会話より大きい音量をヘッドホンで聴かせ、その中から一番良かった結果(語音明瞭度)を選んで基準にするのはあまりにも現状から逸脱し過ぎだと思います。
私が職場で打合せなどをして感じる 実生活での語音明瞭度は、検査の最良語音明瞭度と比べて20%以上は確実に低いです。

もう1つの疑問は「なぜ、両耳の語音明瞭度50%以下でいきなり4級障害者になるのか?」です。
6級を飛ばしていきなり4級になるには理由があるはずです。
推測するに健康な耳を当てはめて考えたのではないかということです。
私は耳が健康だった時に勤めていた会社で、毎日長時間、電話の応対をしていた経験があります。昔のことなので 大量に電話を取っていると 携帯電話の電波状況が悪くて音声が不安定なことも結構ありました。
ブチブチ言葉が途切れるのですが、そんな場合でも7割程度の音を拾えたならば、なんとか会話の内容は理解できたと記憶しています。
聞き取れる割合が減るほど聞き返しは増え、何割を切ったら無理と判断していたかは分かりませんが、聴こえる量によって解読不能の限界ラインみたいなのはあった気がします。
そのことから推察するに、一般に聴こえる量が50%以下になると会話不能と感じる人が多いから50%にしたのかもしれません。
だけど、この境界が分かるのは健康な耳だからです。
ハッキリ認識できる音があるならば、何割で解読不能になるかというおおよその限界ラインを想定することは可能です。
可能か不可能の2択なので、不可能となると一気に4級という発想になっても不思議ではありません。
もしもこの感覚で決めているのだとしたら大間違いです。

健康な耳で半分は聞き取れるという状態は、聴こえた半分の音は正確に聴こえているわけです。
ところが感音難聴者の場合は違います。
聴こえる音の形が歪んでしまっているので、正解かどうかは本人には分かりません
”こんな音に聴こえた”というレベルで、勘で答えているからです。
正確に聴こえる音が有るのと無いのとで、音の世界は全く違うのです。

今の私は50音の全てが不鮮明です。
でも検査をすればよく似て聴こえる音を同じ発音で答えていれば、どれかは当たるようで、曖昧なのに30%程度の最良語音明瞭度は出ます。
本人は何と答えた音が正解したのかは全く見当がついていません。
全てが勘で、答えた発音の後ろには常に「?」がついている感じです。
この危うい状態(聞いている内容を100%誤解する事がある)が、どんな感じなのかが健聴者にはどうしても分からないようです。

経験がなければ分からないのは当然ですが、分からないからこそ難聴者の声にもっと耳を傾けて欲しいと思います。

健聴者には、難聴者の壊れた音を想像することは決してできないことを知ってください。
断定するのは、私自身、難聴にならなければ、今のこの聴こえを想像するのは無理だったと感じるからです。

音の状態は理解できなくても構いません。だけど 聞き取りの低下も、音量と同じで明白な境界があるわけでなく いくつもの段階があることは知って欲しいです。
それが分かっているならば、両耳50%以下でいきなり4級障害にするような大雑把な条件設定にはならなかったと思います。

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■音量だけでも厳し過ぎる現行の障害認定基準

純音聴力検査の結果は、dB(デシベル)の平均で出す話は既にしました。
デシベルは倍率なので聴力が落ちている人ほど1dBの差が大きくなります。
※デシベルの詳細説明 ➡ 『デシベル(dB)は絶対値ではなく倍率』

デシベルは「健康な人が聴くことのできる一番小さな音」を基準としているので、その音を聴くために何倍の音を必要とするかと捉えれば、大きさの違いは分かりやすいと思います。
20dBの人は10倍、40dBは100倍、60dBだと1000倍となり、障害認定基準にギリギリ満たない69dBの人の場合、2818倍も必要となるのです。

聴覚障害の認定基準は両耳70dB以上
もしくは片耳90dB以上と50dB以上です。

語音明瞭度が低かった私の場合は、60dB台で仕事や生活に大きな支障が出始め、それは頑張りでは埋められないレベルに達してしまいました。
この頃になると1dBの低下を物凄く大きく感じました
参考に65dB以上の1dB単位の倍率差は以下の通りです。
・65dB 1778倍
・66dB 1995倍
・67dB 2239倍
・68dB 2512倍
・69dB 2818倍
・70dB 3162倍
たった1dBだけど、倍率で見ると音の変化がものすごく大きいことが分かると思います。
健康な耳の聴力レベルでは1dBの差は気付かないほどの小さな差なのですが、60dBを超えた耳では1dB落ちたら音が消えたと分かることがあるほど、明らかな違いを感じます。

そして障害か健聴かの境界は 69dBと70dBの間にあるわけですが、60dB台後半の倍率は2000倍を超えていることを考えると、認定基準を両耳70dB以上とするのは非常に厳しい基準だと言えます。
更にキツいのが、両耳が同じdBという人は極めて稀で、大抵は数dB以上の差があり、人によっては数十dBの差がある人もいる中で「両耳」という条件を付加している点です。

たとえば、普通の会話の声は60dB程度
これが聴こえない人はすでに健康な耳の人と1000倍の差があるので、この時点で正常とはとても言い難いレベルです。
さらに問題は、片耳が80dB以上に低下していても、もう片方が70dBを切っていれば健聴とみなされてしまうことです。
一番 最悪なのは、89dBと69dBの組み合わせ
これは両耳70dB程度の人より過酷なのですが、片方が1dB足りないからと健聴扱いです。
どれぐらい過酷か想像してみてください。
80dBは10000倍で、走行中の電車内の音が聴こえないレベル。
90dBは31623倍で、騒々しい工場の音が聴こえるか聴こえないかのレベル。
89dBは28184倍。90dBよりマシだとしても、大音量が聴こえないレベルです。
そして69dBは大きな声が聴こえるか聴こえないかのレベルで、普通の会話の声は聴こえません。そんなレベルなのに 片耳に69dBの聴力が残っているならば聴こえるでしょというのはあまりにも酷です。
語音明瞭度の問題も含めて、もう少し現実に即した丁寧な基準に見直す必要があります。

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■要望のまとめ

愚痴っぽくなりましたが、最後にまとめます。
●聴覚障害の認定基準は厳し過ぎる
●障害等級の設定は実態を軽く見過ぎて大雑把過ぎる
●聴覚障害は音量だけでなく、語音明瞭度も重視すべき
片耳の残存聴力を過大評価し過ぎている。

●情報保障が必要な人を救うために障害の認定基準は引き下げるべき。
 (今の6級を5級にし、60dB台を6級に)
●個人的には、60dB以上で語音明瞭度60%以下の人は障害認定すべきと思っている。
・60%以下を提案したのは自分の実体験から。
・60dB台の時の私は 実生活では10~20%程度しか聞き取れていなかった。
・ところが音量を上げて何度も検査をすれば一度ぐらいは55%という微妙な数字が出る。
・50%以下で4級なのに、片方の耳に1回だけ55%が出たというだけで健聴者というのはあまりに理不尽。
50%が4級なら、どう考えても55%は6級にならないとおかしい。というのも、聴力が60dB台まで低下している感音難聴者の場合、50%も55%もはっきり聞き取れているわけではなく どちらも不鮮明な音を勘で答えており、当人は聴こえの差を感じていないからだ。
・ある一定の水準を超えた感音難聴者の語音明瞭度は全部の音が不明瞭になっていることは知ってほしい。
・個人差があるかもしれないが、60%を切った辺りから急激に全部の音が崩れてしまう人はいるので、そういったことを考慮し、実態にあった基準への見直しを望む。

●現在の純音検査の基準も、実態に合わない厳し過ぎる条件になっている。
●片耳80dB台と60dB台の組み合わせを健聴者扱いするような、異常に厳し過ぎる基準は早急に見直す必要がある。

●障害認定に使っている純音聴力検査の「平均の出し方」も検討が必要かもしれない。
・50音のそれぞれの発音は複数の周波数の構成で成り立っているので、500~2000Hzの3つの周波数しか計算に入れないことに疑問がある。
・2000Hzを超えた周波数も 言葉を構成するのに使っている。
・更に 英語は周波数が高めなので4000Hzをよく使っており、英語が必須の世の中であることを考えると4000Hzを無視するのは時代に合わないと思う。
・また日本語の周波数が低めなことを考えると250Hzも無視すべきではないと思う。

以上が現在4級(両耳80dB以上、語音明瞭度30%程度)まで低下が進んでいる難聴の私が、ゆっくり進行して行く中で感じた障害認定基準の不思議です。

現在の聴覚障害基準の考え方は、非常ベルが全く聴こえなくても、言葉でよく使う500~2000Hzが聴こえていれば健聴だとの考えで、言葉に重きを置いてます
言葉を聞くことに重きを置くのは賛成ですが、それならば 言葉の聞き取り能力(語音明瞭度)をもっと真剣に考えてもらわないと、実情に合わないことになります。

繰り返します。
語音明瞭度は補聴器でカバーできないので、語音明瞭度のことをもっと真剣に考え、語音明瞭度が低いがために追い詰められている人が救われるように障害認定基準を見直して欲しいと、これは強く思います。

長文になりましたが、今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
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[前回のナンチョー日記]
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ナンチョーな私の気まぐれ日記(29)下山する悲しみ

[次回のナンチョー日記]
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ナンチョーな私の気まぐれ日記(31)『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』を久々に読んで

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