この記事を書いている人は、難聴の当事者です。
20代の時に 進行性難聴を発症しました。
その時から 大音量の耳鳴りに悩まされています。
24時間365日休むことなく鳴り続ける耳鳴り。これはとても辛いものです。
ちなみに、私が味わっている不快症状は『耳鳴り』だけではありません。
難聴の進行に伴って、次々に現れる『過敏症状』、そして徐々に酷くなって行く『音の歪み』、この3つの症状に苦しめられています。
一括りに難聴といっても、耳の中で起こっていることは人によって様々です。安定と固定、先天性と後天性でも違うので、ここに記す内容は全ての難聴者に当てはまるわけではありません。
難聴に伴う不快症状のメカニズムについては、有力な説が登場しているとはいえ、いまだ定説とは言えないようです。
耳だけの問題でなく、情報を受け取る脳との連携の問題でもあるので、当てはまるケースと 当てはまらないケースは当然にあります。
だけど、仮説であっても まとめてみようと思った理由は、進行性難聴の当事者である私が現在の説に納得しているところがあり、自分の中で起こっていることが分かると、たとえ仮説であったとしても、気持ち的に少し楽になったからです。
なので、この記事は専門家向けではなく、日々の症状に悩む当事者や、耳のことをあまり知らない人向けに、現在、どのように考えられているかを、できるだけ分かりやすく書いてみました。
専門的に学びたい方は、専門書を読んでください。
それでは説明に入ります。
全部を一度に書くと長くなるので、各症状別に3回に分けて書くことにします。
初回は 『耳鳴り』についてです。
目次
■耳鳴りとは?
「キーン」「ジー」「ザー」「ピーピー」など、音がしていないのに、耳や頭の中で音が聴こえる現象を『耳鳴り』と言います。
健康な耳の人でも、大音量で音楽を聴いたり、騒音環境に長時間晒されていると、耳の奥にある有毛細胞が疲弊して一過性の耳鳴りが生じることがあるので、小さな耳鳴りを経験したことのある人は意外に多いかもしれません。
ちなみに、耳鳴りが起こる原因は、難聴などの耳の機能の問題だけではありません。
耳垢が原因だったり、急な気圧の変化や、血流の乱れによる音が耳鳴りとして聞こえる場合もあります。
今回は、いろいろな耳鳴りの中でも、『難聴』が原因の耳鳴りに絞って話を進めます。
通常、私達の耳は、外部の音が耳に入って来ると、その振動を耳の奥にある『内耳』に届けます。
そこには沢山の有毛細胞が並んでいて、音の振動をキャッチすると、それを電気信号に変換して脳に情報を送っています。
私達は、この音の情報が脳に届いて、はじめて『音』を認識することができます。
耳鳴りはこの流れのどこかに異常が起きた時に生じます。
耳の病気というより、耳と脳のシステム上の問題という感じです。
※耳の構造や機能についての基礎知識が全く無い方は、以下の記事も参考にしてください。
→ 耳は、音をどのように聞き分けているのか?
上記で紹介の参考記事を読んだ方は、耳の細胞には担当している音があることを知っていただけたと思います。これは、信号を受け取る脳の方にも音の担当(音の地図)があり、各担当は微弱な電気を出しながら、自分の音が届くのを待っています。この微弱な電気のノイズが増大すると、耳鳴りになるのです。
このノイズは誰にでもあり、健康な耳の人にも当然あります。
■なぜ難聴になると耳鳴りが起きやすいのか?
原因のひとつは、脳が「音の不足を補おうと」して、感度を上げすぎてしまうためです。
難聴になると、内耳からの信号が弱くなります。すると、脳は「信号が足りない!」と感じ、自動的に感度(ゲイン)を引き上げます。
イメージとしては、音量が小さ過ぎて聴こえない時、アンプのボリュームを上げますが、それと同じような感じです。
ところが耳の場合、信号が減った原因まで分からないため、足りない分だけ頑張ろうとしてボリュームを上げすぎてしまいます。すると、普段は無視されている神経のノイズ(自発放電)まで 音として拾ってしまうのです。これが耳鳴りの正体です。
ここで疑問が湧きます。
人によって耳鳴りの音は違います。
それはなぜでしょうか?
これにも理由があります。
耳の細胞に音の種類による担当があるように、脳の側にも各音の担当がある話は先にしました。
難聴は全部の音が一斉に消失することは稀で、特定の音が入りにくいなど、音によって届くボリュームが違います。
そして、どの音域(周波数帯域)が障害を受けているかは人によって異なります。
高音がダメな人もいれば、低音がダメな人もいます。
届くはずの音の信号が届かなければ、その音の担当が感度を爆上げしてしまいます。
すなわち届かない音だけが増幅されるので、人によって耳鳴りの音が異なるのです。
ちなみに「耳鳴りの音域は、難聴が最も強い周波数帯域と一致しやすい」という研究知見もあります。
■難聴なのに耳鳴りのない人がいるのはなぜ?
難聴者であれば必ず耳鳴りを持っているわけではありません。
耳鳴りが有る人と無い人がいる理由は、現時点では明確には分かっていませんが、いくつか仮説はあります。
【仮説① 脳のノイズの抑制機能の個人差】
耳鳴りの正体は、神経のノイズ(自発放電)だという話は先述の通りです。
このノイズは誰にでもありますが、健康な脳はこれを「本物の音ではない」と判断して意識にのぼらせない抑制機能が働いているので、耳鳴りを感じることはありません。
難聴になると、信号が届かないため脳は感度を上げます。このとき、この抑制機能も一緒に弱まってしまうことで、今まで無視していた自発放電が「音」として意識にのぼり、耳鳴りを感じると考えられています。
耳鳴りのない難聴者は、この抑制機能が保たれているため、自発放電をノイズとして処理し続けられるのではないかと考えられているのです。
この抑制機能の強さには個人差があり、体質・年齢・睡眠・ストレスなども影響すると言われています。
【仮説② 脳が今の状態を受け入れる】
難聴が非常に進行した場合、脳が「この聴こえ方が現実だ」と完全に受け入れてしまうことで、耳鳴りが消えるケースがあります。
言い方を変えると、今まで脳が「音を聴こう!」と頑張っていたのに、それを止めてしまうということです。
たまに「失聴したから耳鳴りも無くなった」と言っている人がいますが、失聴しても耳鳴りが鳴り続けている人もおり、これは聴力の問題ではなく、これも脳の反応の個人差によるようです。
『耳鳴り』は、難聴があれば必ず生じるものではなく、「脳がその難聴にどう反応するか」によって耳鳴りの有無が決まるということです。
余談ですが、私は「脳が諦めずに頑張っているのか……」と思うと、ちょっと許せる気持ちになりました。
■先天性の聴覚障害者の場合はどうですか?
一般に先天性の難聴者には耳鳴りがないと言われます。私の先天性難聴の知人も耳鳴りの無い人が多いです。
その理由は、当人にとっての当たり前の状態が異なるからです。
脳は当たり前の状態からの変化が無ければ不足したとは感じません。
先天性の場合、聴こえない状態が当たり前のため、耳鳴りが起きにくいのです。
もう少し詳しく説明します。
脳が「音が足りない」と感じて補おうとするためには「本来こんな音が聞こえるはず」という基準が脳に刻まれている必要があります。
特に、幼少期の早い段階の聴覚経験が、この基準を形成すると考えられています。
生まれつき、音が殆ど聴こえない人には、そもそもこの「基準」が存在しないため、脳が「補う対象」を持たず、耳鳴りが起きにくいとされています。
但し、補聴器などで幼少期から音を経験していた先天性難聴者の場合、残存聴力が更に低下した時などに、中途難聴と同様の耳鳴りが現れることはあります。
■体調によって耳鳴りの大きさが変わるのはなぜか?
耳鳴りの大きさは、脳がノイズを増幅しようとする力と、それを抑制しようとする力のバランスによって変わります。
疲労やストレスが溜まっている時に、耳鳴りが増大する経験は耳鳴りを持っている人にはよくありますが、これは脳の余力がなくなり、不要な音情報をカットする抑制機能が弱まるからです。
抑制機能が弱まると、脳内の電気ノイズが、ダイレクトに大音量として意識にのぼってしまい、耳鳴りが酷くなったと感じるのです。
■耳鳴りは治るのか?
残念ながら、今の医学では、耳鳴りを完全に消す治療法はありません。
苦痛を和らげるというのが、今の治療法です。
基本は、耳鳴りは ただの雑音だと脳に覚えさせて、慣れることを目指した治療法になります。
こういった療法は、個人差が大きく、効果には差があるようなので、ここでは詳しく説明しません。
興味があれば、TRT療法などの治療法があるので、耳鼻科で相談してみてください。
最後に余談ですが、私は耳鳴りを発症した時、煩くて眠れませんでした。
24時間非常ベルを聴き続けているのと同じような状態なので、音が一段と気になる就寝時などは気が狂いそうでした。
自分の意思で、音を止めることが出来ないというのは地獄です。一生この状態が続くのかと思うと、生きて行く自信をなくしたこともあります。
今は当初より 耳鳴りの種類は増え、大音量の非常ベル音も健在で、体調によって 煩いだけの時と 頭が痺れるほどの爆音になる時とがありますが、酷い時でも、絶望することはありません。
これが慣れるということなのだと思います。
今も難聴が進行中で、耳鳴りの状態は常に変動していますから、私の場合は慣れたとは言い切れませんが、絶望しないように意識を逸らす(気にしない)術は、いつの間にか身につきました。
これが慣れるということなら、慣れるための第一歩は、治そうと思ったり、止まることを期待しないことかなと思います。
耳鳴りは、一番酷い状態から、ほんの少しマシになるだけで 楽になるので、そういう意味では耳鼻科で行なっている療法も、期待し過ぎずに試してみるのは良いかもしれません。
私のおすすめは「さっさと諦める」です。
諦めにくいのは経験上すごく分かるけれど、気にするということは、その分、耳鳴りに集中するということなので、この状態だといつまでも辛いままです。
これから慣れる段階の人は、難しいけれど、頑張って諦めてください!
次回は『聴覚過敏』についてです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【難聴関係の記事】
■聴覚関係の知識
■商品紹介・レビュー
