オージオグラムの見方と、身体障害者手帳の基準となる平均聴力の算出方法

スポンサーリンク
聴覚障害

【耳 No.4】

耳鼻科で「耳が聴こえにくい」と伝えると必ず受ける検査に「純音聴力検査」と言うのがあります。ヘッドホンを装着して、ピーという音が聴こえたらボタンを押すという検査で、知っている方も多いと思います。
この「純音聴力検査」に使う機器をオージオメータと言い、その検査結果を表す図をオージオグラムと言います。
※その他の検査方法については、聴力検査にはどのような種類があるのか?(聴力検査の種類)の記事でまとめているので、そちらを参考にしてください。

スポンサーリンク

1.オージオグラムの見方

オージオグラムは、縦軸で音の大きさ(dB:デシベル)を表し、横軸で音の周波数(Hz:ヘルツ)を表しています。音の聴こえ方は周波数(音の高さ)によって差があるので、周波数毎の聴こえを確認する必要がありますが、それを確認するのに用いているのがオージオグラムです。
縦軸の音の大きさ(dB)の見方は、記号が上の方(数値が小さい方)に付いているほど小さな音が聴こえているということです。逆に、数値の大きい下の方に記号が付くということは、数値の分だけ大きな音を出さなければ聴こえていないということです。
0dBは一般に人間が聴くことのできる一番小さな音とされていますが、中にはそれよりも小さな音が聴こえる人もいるのでマイナスの欄もあります。
測定は5dB間隔で測ります。
横軸の周波数(Hz)は、数値が大きくなるほど音が高いということで、オージムグラムでは右へ行くほど高音を表しています。
人間の耳は約20~20000Hzの音が聴こえるとされていますが、測定するのは125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、8000Hzの7種類です。

オージオグラムは右耳、左耳、気導聴力(普通に鼓膜を通して聴く音)、骨導聴力(骨に振動を与えて聴く音)で記号が決まっています。
気導聴力は、右耳は○印左耳は×印で、右耳(○)は実線で結び、左耳(×)は点線で結びます。
骨導聴力は[ ]で表し、右耳は[左耳は ]で表します。
オージオメータで測れる音の大きさには限界があり、測定可能な音が全て聴こえない場合、スケールアウト(測定不能)と言って、記号は↓です。
気導聴力は、実線・点線で結びますが、スケールアウトの場合は線で結びません。
下記に正常な聴力の人のオージオグラムと、感音難聴者のオージオグラムをそれぞれ一例ずつ貼り付けているので参考にしてください。
===============

スポンサーリンク

2.正常な聴力

正常な聴力の人も、人によって周波数毎の聴こえは微妙に異なります。
また年を取ると、だんだん聴力は低下するので、医師が患者の聴力を見る時には年齢も考慮します。
難聴の分類は明確には決まっておらず、私は難聴対策委員会の指標を参考に軽度難聴を25dB以上としていますが、21dB以上を難聴とする考えもあります。
下記(図1)は正常な聴力の人の一例ですが、図1では全ての周波数が20dB以下に納まっているものの、横一直線ではなく、周波数によって聴こえは上下しています。気導で測定するのと骨導で測定するのとでも違いが生じています。防音や機器の状態のほか 測定者の腕なども影響しますが、健康な耳と言われる人達も聴こえのパターンは少しずつ異なります。

===============

スポンサーリンク

3.年齢による聴こえの変化

個人差はありますが年を取れば、若い頃に比べて聴力は衰えるものです。
一般に30歳代を境に聴力は衰え始め、高音域から低下していきます。(図2参照)
そして高音域の低下とともに、言葉の聞き取り能力も落ちていきます。
特に子音は母音よりも高音を使っているので、子音の聞き間違いが増えていきます。
加齢による蝸牛の変化によって起こる難聴を「老人性難聴」と言います。

===============

スポンサーリンク

4.聴力障害の型

オージオグラムに表れる聴力の型には様々な型があり、難聴における障害部位の特定や原因の診断の参考に使われています。
下図(図3)は聴力に問題のある代表的な型です。パターンとしては、これに正常型や混合型が加わります。
「a.水平型」「b.低音障害型」は伝音障害の人に多く見られる型です。
「c.高音障害漸傾型」「d.高音障害急墜型」は感音障害に多い型です。
「e.ディップ型」はある周波数に限局して聴力障害が出現するもので、4000Hzに認められることが多く、音響外傷によく見られます。
伝音難聴には、「e.ディップ型」と「h.ろう型」はありません。

===============

スポンサーリンク

5.感音難聴者のオージオグラム例

下記(図4)は、高音障害型の感音難聴者のオージオグラムです。
この方の聴こえは、右耳の低音は軽度難聴域、左耳の低音は中等度難聴域で、高音になるほど聴こえておらず、右耳は8000Hzはスケールアウト、左耳は4000Hz以上がスケールアウトしています。
骨導聴力も気導聴力と同じく低下が見られ、1000Hz以上はスケールアウトしています。
耳が聞こえるしくみと難聴の種類 の中でも説明しましたが、難聴には感音難聴の他に伝音難聴といって、外耳から中耳の音を伝える部位の障害により聴こえない難聴があるのですが、伝音難聴の人の場合、気導聴力は悪くても、骨導聴力は正常に機能しており、オージオグラムでは気導聴力と骨導聴力のラインに大きな差が生じます。
事例のオージオグラムは、骨導聴力も聴こえていないので感音難聴であることが分かります。
これだけ周波数による音バランスが狂えば、様々な周波数の組み合わせでできている50音は当然正確な音には聴こえませんから、言葉の聞き取りが非常に困難であろうことは容易に想像がつきます。

===============

スポンサーリンク

6.障害者の認定基準に使われる平均聴力の算出方法

難聴は、聴こえの程度によって、軽度、中等度、高度、重度に分かれます。この難聴の程度については、デシベル(dB)の差による聴こえの違いと難聴の種類について の記事の中で説明しているのでここでは詳細の説明は省きますが、障害度を決めるのはオージオメータで測定した数値の平均値です。
オージオメータで測定する周波数は7つであることは先に説明した通りですが、平均値とはこの7つの平均値ではありません。
日本の福祉が使っている数値は、500~2000Hzの3種類の音で計算した数値です。なぜ500~2000Hzなのかというと、“話し言葉でよく使われている音の高さに該当する”からだそうです。実際には500Hz未満の周波数も、2000Hz超の周波数も、50音は使っているので、個人的には乱暴な考え方だなと思います。

計算式には2分法、3分法(2種類)、4分法(2種類)、6分法の6つの算出方法があります。
それぞれの計算式は下記の通りです。
(1) 2分法 (1000 Hz + 2000 Hz) /2
(2) 3分法A (500 Hz + 1000 Hz + 2000 Hz)/ 3
(3) 3分法B (1000 Hz + 2000 Hz + 4000 Hz)/ 3
(4) 4分法A (500 Hz + 1000 Hz x 2 + 2000 Hz) / 4
(5) 4分法B (500 Hz + 1000 Hz + 2000 Hz + 4000 Hz) / 4
(6) 6分法 (500 Hz + 1000 Hz x 2 + 2000 Hz x 2 + 4000 Hz ) / 6

病院でもらうオージオグラムには複数の計算式で算出した数値が並んでいますが、障害の認定に使われる計算式は、上記(4)の4分法 (500Hz + 1000Hz × 2 + 2000Hz)/4 です。書式を見ての通り、4分法と言いながら計算に使っている周波数は3つで、1000Hzを2回入れての4分法です。

先ほどの難聴者のオージオグラムをこの4分法で計算すると、
右耳は、(60dB + 75dB×2 + 85dB) / 4 = 73.8dB
左耳は、(65dB + 75dB×2 + 95dB) / 4 = 77.5dB
となり、この方の聴力は、両耳70dB台の高度難聴ということになります。
ちなみに、この方は両耳70dB以上なので、身体障害者手帳では6級に該当します。
障害等級については、デシベル(dB)の差による聴こえの違いと難聴の種類について の中でまとめているので、そちらを参考にしてください。

===============
ここからは余談ですが、個人的にはこの計算式には疑問を持っています。
私は長年、低音は軽度、高音は重度難聴という状態を続けてきました。
例えば、スマホ等のバイブの音は聴こえるけれど、セミの鳴き声や非常ベルは聴こえない。そういう極端な聴こえの耳だったわけです。
もう少し詳しく説明すると、私の中等度時代の聴こえは、500Hz以下は30dB以下、2000Hzで70dB以上、4000Hz以上はスケールアウトしていました。
500Hzが聴こえるので、平均聴力は常に中等度だったのですが、これだけ極端だとそれなりに聴こえ方も狂うようで、軽度の時から、数値の聞き間違いは多かったです。
たぶん数字は前後の文脈で想像できるものではないので、影響が直ぐに出たのでしょう。
当時も、そして今でも不思議なのが、何度聞いても、ゼロがキュウに聴こえたことです。特に女性の声の電話の番号案内はダメでした。ゼロと言っていることが分かっていても、聴こえるのはキュウ、どれだけ耳を澄ませてもキュウなのです。なぜ母音も違えば文字数も違う音が、軽度難聴の段階で全く違う発音に聴こえるのかはとても不思議でしたが、どう頑張ってもゼロには聴こえないのです。これはショックでした。私の難聴の苦労はここから始まりました。

また、高音が聴こえないと、警報音が聴こえません。非常ベルは近くに行けば振動音が聴こえるので鳴っている事は分かりますが、少しでも離れると音に気付くことはできません。
低音が聴こえると、非常ベルが聴こえない人だとは誰も思わないので、避難訓練では置いてきぼりになったこともあり、これは恐ろしいことだなと思いました。
更に、日本語が使っている周波数は比較的低いとはいえ4000Hz以上も使っていますし、日本語より高音域をたくさん使っている英語は4000Hzが失聴すると聞き取りは厳しいでしょう。
逆に低音が聴こえないと、日本語の聞き取りに大きく影響するだろうことは、低音のみ聴こえていた私の逆体験から想像がつきます。
日本語は500Hz未満の音も使っていますし、私の場合は 250Hz前後が聴こえていた時は、男性との会話は比較的スムーズでしたから、低音も必要だと感じています。
ですから、難聴の測定には250Hzや4000Hzも考慮して計算するべきだと私は思っています。

現状では、障害の認定基準を決めているのは健常者ですが、医者も含めて健常者には障害の不自由がどこにあるのかが想像しきれていないことを痛感します。
語音明瞭度を測定する「語音聴力検査」(発音を聞き分ける検査)も、感音難聴が酷くなると、全てが想像で、健聴の時のように確信を持って答えているわけではないのです。聴こえてくる音の全てが自分で正しいか判断できない状態がどういうことなのかは健聴者には分からないでしょう。
また、語音明瞭度の検査では、過去に苦い経験もあります。
語音明瞭度の測定方法には自分で書き込む方法と、測定者が患者の回答を聞いて書き込む方法がありますが、後者の方法で、測定者が回答を書き込んだ時、とんでもない結果が出たことがあります。
私は、検査時に流れる「50音で答えてください」が、「数字で答えてください」に聴こえたので、全部数字で答えてしまったのですが、結果は正答率80%という高得点でした。医師の手元の回答表を見ると、数字で答えたはずなのに50音の一文字がずらりと書き込まれていました。ところどころに「ヨン」と不自然な2文字が書き込まれているところがあるので、私が答えた数字を50音に勝手に置き換えてしまったことは明白です。どうしたら他の数字を50音に置き換えることができたのかは今でも謎ですが、こんないい加減な検査で殆ど聞き取れない耳を80%聞き取れる耳だと誤診されるのは患者としては迷惑な話です。
そもそもヘッドホンを通しての音声指示を正確に聞き取れない人がいることに医療関係者でさえも気づいていないことに憤りを感じます。
感音難聴者が聴いている音は、絶対に健聴者には想像ができないでしょう。
ならばもっと障害者の声や意見に耳を傾けて欲しいと、これは強く願います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
[難聴関連の他の記事]
□体の学習帳「聴覚障害」記事一覧
□「難聴便利グッズ」記事一覧
聴覚障害関係の記事は、この他「からだのエッセイ」や「感想」などでも数多く取り上げています。

タイトルとURLをコピーしました