からだのエッセイ 第10回
私は12年前に補聴器を購入するまで、集音器(助聴器)で聴こえをカバーしようと必死でした。
私が進行性の難聴を発症したのは20年以上も昔のこと。
高音は失聴しても低音は普通に聴こえていた私は、お医者さんから「補聴器をすると聴こえる音が聴こえ過ぎるから、あなたに補聴器は無理です」と言われていました。
調べてみると、当時はアナログ補聴器だったようです。
補聴器が今のフルデジタルになったのは1990年代からで、2000年に入ってから一気に技術が向上したようです。私がお医者さんから補聴器は無理だと言われたのは1990年代でしたから、今なら同じ聴力でも違うことを言われただろうと思います。
とはいえ、当時は今ほど補聴器の技術が発展していなかったので、仕方がありません。
だけど中等度の半ばまで聴力ダウンが進むと、さすがに聴こえないことが増えて不自由です。
仕事で人の話が聴こえないのは致命的なので、私は集音器(助聴器)でカバーし始めました。
今考えると、大変矛盾しており、聴こえる音が聴こえ過ぎるという理由で補聴器を装着出来なかったのですから、集音器(助聴器)が快適なわけがありません。
会議で話している人の声を集音器(助聴器)で聴いている時に、机に物を置かれたり、突然誰かが咳をした時など、飛び上がるほどの衝撃音が耳を襲うので、集音器(助聴器)を使う時はいつもビクビク、ドキドキしていました。
そういう体験をしているので、音の高さ(周波数)によって、聴こえの差が大きい人には、基本的に集音器(助聴器)はおすすめしません。
とは言っても、補聴器は高額ですし、補聴器をすることに抵抗を感じる人がいるのも確かです。
最近はブルートゥースの登場で音楽を無線で聴く人が増えたので、補聴器を装着する抵抗も昔に比べれば和らいだと言えますが、それでも補聴器は嫌だという人は今もいます。
それに、補聴器も入れっ放しだと疲れるので、音を聴く必要のない時は補聴器を外している人も少なくありません。
そういう時、集音器(助聴器)が便利なこともあるので、集音器を全否定はしません。
だけど使える集音器(助聴器)はとても少ないです。
私は、便利に使える集音器(助聴器)を求めて 過去に10台ぐらい試しましたが、結局、今も手元に残っているのは電話型の2台だけです。
集音器(助聴器)は補聴器に比べれば安いので、それを理由に集音器(助聴器)を好む方もいます。でも、数千円~数万円まで それなりの値段はするので、失敗したからまた買うの繰り返しではお金がいくらあっても足りません。それに試して使えない集音器は処分することになるので、それも勿体ないです。
難聴者には 1人として同じ聴こえの人はいません。皆違うので、私の体験談が100%参考になるわけではありませんが、少なくとも感音性難聴の方が集音器(助聴器)を購入する時に注意すべきことは参考になると思いましたので、今日は集音器(助聴器)の体験談を話したいと思います。
(補足)これを読んでいる方の中には、難聴に詳しくない方もおられると思うので補足しておきます。感音性難聴とは内耳(音をとらえている細胞や脳に音を伝達する神経など)が障害されて起こる難聴で、音をとらえる細胞や音を伝える神経の損傷具合によって聴こえる音と聴こえない音に差が出ます。難聴者の多くは感音性で、老人性難聴も感音性です。詳細はこちらの記事を参考にしてください→「耳が聞こえるしくみと難聴の種類」
■集音器(助聴器)の失敗談
私が集音器(助聴器)を使おうと思い始めたのは、仕事で会議の時に離れた人の声が届かなくなってきたからでした。
そして、最初に集音器(助聴器)を購入するきっかけになったのは、たまたま新聞で 電話型の助聴器を使っているご高齢の方の記事を見たのがきっかけでした。記事で紹介されていた方は 商売をされていて、お客さんと話をしたい時だけ 耳に当てて聴く。そんな使い方をされていました。
これは便利そうだと思って、さっそく調べて同じ物を買いました。
音は非常にクリアで、聞きながらボリューム調節も出来るため、非常に使いやすいと感じました。健聴な友人は離れたボソボソ声が聴こえるのが楽しかったようで、一時、会社では皆のオモチャになっていました。
結論から言うと、様々なタイプの集音器(助聴器)をいろいろ試しましたが、結局最後は「これが一番!」ということになりました。
それでは、なぜ、最初に良い物と巡り合ったのに、あれこれ探し求めることになったのかというと、それはダサイからでした。
見るからに福祉系のデザインで、今より若かった私は 人前で使うことにかなりの抵抗を感じました。そのほかにも会議中に耳に当てると、あらかじめ皆に了承を得ていても 視線が集まってしまうし、発言している人も気になるようでチラチラ見るので、居心地の悪さもあって、使う勇気が萎えてしまいました。
そこで、もっと小さく手に隠れるようなモノがあればいいなと探し始めたら、イヤホンタイプなどいろいろ目に入ってきて、広告の謳い文句に心動かされるままに、数千円から10万円近いモノまでいろいろ試しました。
まず、イヤホンやヘッドホンタイプは、衝撃音が生じた瞬間に音の回避が難しいので無理でした。集音器(助聴器)は大きな音が鳴った瞬間に耳から外せなければ、感音難聴者には厳しいと痛感しました。
衝撃音を抑えているというモノも試しましたが結果は同じでした。
骨伝導も試しました。鼓膜で聴くより大音量の苦痛が和らぐだろうと考えたのですが、これは聞き取りが悪くダメでした。感音難聴は気導(鼓膜で聴く)と同じように骨伝導の聞き取りも低下しているので、私の場合は購入した骨伝導の集音器では言葉を聞き取ることができませんでした。これに比べれば、直接耳に入って来る普通の集音器の方が聞き取りは遥かに良かったです。(骨伝導は伝音性難聴の方には効果が見込めても、感音性難聴には厳しいと思いました)
この他、耳のリハビリ効果があるという製品も使ってみましたが、私の聴こえの悩みを解決することはありませんでした。
最後に電話型で もう少しデザインに抵抗のない物を探して、購入しました。
その製品は、音は聴こえるけれど、音のクリア度が最初に買ったモノとは全然違いました。
商品によって、ここまで言葉のクリア度が違うのかと驚きました。
音量は十分あるのですが、肝心の言葉が聞き取れないのです。
どの集音器(助聴器)の音が聞き取りやすいかは、難聴者によっても違う可能性はあります。
私がダメだと感じた製品が良いと思う人もいるかもしれませんし、逆に私が良かったからといって他の人も同じだとは限りません。
難聴度によって、許容できる範囲も異なることでしょう。
間違いなく言えることは、最初に聞いてダメな集音器(助聴器)は、どう工夫してもダメです。慣れることは決してないということです。
なので、言葉の聞き取りに困難を感じている人ほど、試聴してから購入することをおすすめします。
とはいえ、試聴させてくれる所は限られています。
福祉関係のお店で助聴器を扱っていれば 試聴させてくれる場合もあるので そういう所をのぞいてみるとか、最近は銀行や役所の窓口に助聴器を備え置いている所もあるので、そういう所で使ってみて良ければ製品名を教えてもらうなど、集音器(助聴器)が欲しい方は、日頃からアンテナを張っておくと良いでしょう。
■私が手元に残した集音器(助聴器)
私が手元に残した集音器(助聴器)は電話型だけです。
その集音器(助聴器)も、補聴器を使うようになってからは、ほとんど使うことはなくなりました。
耳穴式の補聴器だったら併用したかもしれませんが、私は耳掛け式なので、耳に当てるタイプは 補聴器を装着している時には使いにくいのです。
だけど、休日は耳を休めるために 補聴器を外していることが多いので、臨時で人と会話をせねばならない時のために置いています。
なにせ補聴器は瞬時に装着できないので、そんな時に電話型の集音器(助聴器)は便利なのです。
「聴吾」(プリモ)
私が使っているのは、プリモの「聴吾」です。
14~15年前に購入したので、今も同じかどうかは分かりませんが、写真を見る限りでは同じです。
最近買った人のレビューを見ると、音量のつまみが回しにくいと言っている人がいましたが、私の持っているモノは、音量操作に全く問題ないので、この部分がどのように変わっているのかは分かりません。
耳当ては柔らかく、スイッチは耳に押し当てるとONになり、耳から話すとOFFになるので、電源を使うたびに入切する面倒がないので便利です。
もちろん、長時間使わない時はOFFにしておきます。
音はクリアです。助聴器としては優秀だと私は感じています。
「クリアーボイス」(伊吹電子)
もう1つ、私が処分せずに残した集音器(助聴器)は、伊吹電子の「クリアーボイス」です。
小さくて、見た目が「聴吾」より抵抗がないので買いましたが、こちらは音声が私にはダメでした。
私が購入したのは10年以上前なので、今は変わっているかもしれません。
ちなみに私の持っているものは、音量調整がついていません。耳に当ててボタンを押せば、増幅された音が入ってきます。
音の問題さえ解決しているなら、使い勝手は悪くありません。
ただやはり、言葉が聞き取れるかどうかは重要ポイントなので、試聴できるなら試聴してから購入することをおすすめします。耳に合えば便利だと思います。
ちなみに銀行などの窓口に置いている助聴器にこの製品を使っている所もあるので、日頃から銀行などの窓口をチェックしていたら巡り合えるかもしれません。
■その他助聴器(参考)
「ボイスメッセ」「ボイスモニター」
この他、似たような製品に「ボイスメッセ」や「ボイスモニター」などがあります。
私は使用したことがないのですが、銀行などの窓口に置いていることがあります。
試聴のチャンスがある製品なので紹介しておきます。
上記の「クリアーボイス」同様、試聴してから決めることをおすすめします。
■最後に
「言葉」は複数の周波数の組み合わせでできています。
言葉を正確に聞き取るためには、音(言葉の発音)を構成する全ての周波数が聴こえている必要があります。例えば「く」という音を発音するためには複数の周波数を使っているわけですが、その内の1つでも抜ければ音が狂うことは何となくでも想像してもらえると思います。実際にはひどく不明瞭な音になります。
難聴者が集音器(助聴器)を使うのは主に会話をするためですが、少しでも正常に近い言葉にするためには、聴力が落ちている音が聴こえるところまで音を増幅する必要があります。ところが 集音器(助聴器)の場合、聴こえる音まで一緒に増幅してしまうので、下手をすると 耳を傷めてしまいかねないのです。
だから集音器(助聴器)は、あくまで臨時で使うものと考えてください。
イヤホンで入れっ放しで使うことを考えるならば、一番安いモノで構わないので騒音抑制のついた補聴器を使った方が耳のためになると思います。
難聴者は聴こえなくて辛いけど、今より聴こえなくなったら、もっと辛いです。
これ以上聴力を失わないためにも、耳のことを考えて、何を使うのが一番良いのか考えて選択してほしいと思います。
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