漫画「淋しいのはアンタだけじゃない(第1巻)」を読んで思ったこと

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読書感想

読後感想 第1回
「淋しいのはアンタだけじゃない」(1) 吉本浩二著

■はじめに
この漫画は、聴覚障害を取り扱ったドキュメンタリー漫画で、取材を通して聴覚障害とは何かを真剣に考えている本です。
難聴の私が読むと、普段いくら説明しても理解してもらえにくいことが、すごく分かりやすく描かれていて共感の嵐でした。
健聴者の目線で聴覚障害がどのような感じなのかを表現しているので、健聴者にも分かりやすく、多くの人にぜひ読んでいただきたいと思った本です。
私が共感した内容は本を読めば分かることなので、ここでの感想は難聴者である私が考えさせられたことを書きたいと思います。

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■聾者の苦労を改めて考えさせられた

第1巻は、主に聴覚障害者への取材がメインなのですが、その中で特に印象に残ったのは、私とは異なる聴覚障害者の話でした。
その1つは、音声言語を身につける前に聴こえなくなった聾者の話です。
私は成人してから難聴を発症しているので、生まれた時から耳が聴こえない人の苦労はこれまであまり考えたことがありませんでした。
漫画の中で、聾の人が世の中にいろいろな音があることを知るのに漫画が役立ったと話しているのを見て、先天的に聴こえない方の苦労というのを改めて考える良いきっかけとなりました。

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■同じ聴力レベルでも人によって聴こえ方は全く違う

もう1つは、中等度難聴の会社員の話です。
私は20代半ばまでは普通に聴こえていて、その後、軽度難聴、中等度難聴、高度難聴とゆっくり進行しているので、中度の難聴もしっかり体験しました。
取材に応えていた難聴の方は、聴力レベルが50dB(デシベル:音の大きさを表す)の感音性の難聴者でした。
私もこの会社員と同じ感音難聴なので、この方の話すことは共感することばかりだったのですが、1つ私と違ったのが この方は裸耳(補聴器を外した状態)だと殆ど何も聴こえないということでした。
50dBの聴力は一般に「普通の会話が聞き取れない」程度とされているのですが、この方は「耳元で大声で話さないと聴こえない」と言っています。これは重度に近い高度難聴レベルで中等度を遥かに超えている状態です。
ちなみに私が50dBの時に、耳元で大声を出されたら飛び上がったことでしょう。
この違いは何なのか、私も考えてみました。

話を進める前に、少しだけ専門用語の説明をしておきます。
聴力検査のことに詳しい方は、次の説明は読み飛ばしてください。

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■50dBの難聴って何?(専門用語の説明)

聴力検査に馴染みの薄い人には、50dBの難聴と言われてもよく分からないと思います。
簡単に説明すると、聴力検査で ヘッドホンを装着して“ピー”という音が聴こえたらボタンを押すという検査があるのですが、数値はその検査でその人がボタンを押した時に鳴っていた音の大きさを表しています。
ちなみに0dBは音が無いという意味ではなく、一般に健康な人が聴こえる音量を0dBとしています。なので、すごく耳の良い人ならばマイナスという結果を出すこともあります。
50dBとは、それだけ大きな音を出さないと“ピー”という検査音が聴こえないということです。

聴力検査をすると、高さの異なる数種類の音を聴かされますが、これは音の周波数(高さ)の違いによる聞こえを調べています。
そして音の高さはHz(ヘルツ)という単位で表します。
一般に病院の聴力検査では、125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、8000Hzの7つの周波数を測定します。数値が低いほど音の高さは低く、数値が高いほど音は高いということです。
そして、それぞれの音の聴こえるdB(デシベル)を図式化したグラフをオージオグラム(聴力図)と言います。縦軸にdB、横軸にHzで表します。
難聴になると、大抵の場合は音の高さによって聴こえる音量に差が出ますので、グラフの形状は皆それぞれ個性的です。

ここで出てくる疑問は、7つの音を検査しているのに聴力レベルを語る時に「右は50dBで、左は60dBです」と1つの数値が出てくることです。
これは何を表しているのかというと、これは平均値を表しています。
但し、全部の音の平均値ではなく、日本では一般に500~2000Hzの3種類の音で計算します。“話し言葉でよく使われている音の高さに該当する”というのが理由のようです。

計算式には2分法、3分法(2種類)、4分法(2種類)、6分法の6つの算出方法があるのですが、日本で一般に聴力レベルの判定に使われている計算式は、3つの周波数を使って出す4分法が使われています。各周波数のdBを次の書式に当てはめて計算します。
(500HzのdB + 1000HzのdB×2 + 2000HzのdB)÷4
1000Hzを2回入れての4分法ですね。
ちなみにこの計算式では250Hz以下と4000Hz以上の聴こえは完全に無視されています。

今回「淋しいのはアンタだけじゃない」を読んで、私は この計算式で聴こえの判定をすることが果たして正しいのかという疑問を強く持ちました

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■絶対におかしいと思う!聴力レベルの算出方法

聴力レベルの算出方法に疑問を持った理由は、漫画に登場した50dBの難聴者と、現在両耳70dB台の高度難聴の私の聴こえが、人との会話では同じようなレベルのように感じたからでした。

私は低音と高音の聴こえの差が大きい型の難聴で、平均50dBの頃は4000Hz以上の高音は測定不能(聴こえない)レベルだったにも関わらず、250Hz以下の低音はギリギリ正常な20dBで普通に聴こえていました。
ですから当然ですが、低音が聴こえているので耳元で大声を出されたら健聴者と同じように苦痛な衝撃を受けたことでしょう。
但し、聴こえることと、話を聞き取れることは別の問題で、低音は聴こえても高音は聴こえませんし、間の音も一定ではなく 周波数による聞こえのバランスがめちゃくちゃですから、私の場合は 軽度難聴の段階でなぜか電話の番号案内の「ゼロ」と「キュウ」を聞き分けることができなくなっていました
そして、低音が聴こえるがために補聴器を装着することができなくて、この音バランスのまま60dBになるまで補聴器無しで過ごしていました。

現在は両耳とも70dB以上ですが、70dBになった当初は両耳とも小さな音とはいえ、まだ男性の声を裸耳で聴くことが可能でした。しかし その後、左耳は男性の声だけでなく、自分の声も聴こえなくなりました。聴こえなくなったのは250Hz以下が50dBに達してからでした。
実は右耳は今も250Hz以下は30dBを維持していて、そのため聞き取りの問題は別として一部の男性の声は今も小さいけれど聴こえます。
そして自分の声もロボットみたいな声ですが聴こえています。
計算に使う500~2000Hzの聴こえの数値は左右殆ど同じなのに、これだけの差が出ているのです。

漫画の会社員の方は、50dBで人の声が聴こえていません
250Hz以下が50dBに達してから自分の声が聴こえなくなった私の左耳、同じ70dB台でも自分の声が今でも聴こえている私の右耳。違いは低音部分の聴こえだけ。
この3つの状況を並べて考えると、本当に会話に必要な周波数は500~2000Hzなのだろうかとの疑問が湧きます。
そこで、言語による周波数を調べてみました。
すると、日本語は他の言語に比べると使っている周波数は低めで 125~1500ヘルツを主に使っていることが分かりました。特に多く含まれる周波数は400~1200Hzらしいのですがそれでも計算は500Hz以上ですから低音をカバーしきれていません。
因みに、英語は2000~12000Hz(特に多い周波数は3000~5000Hz)米語は750~5000Hz(特に多い周波数は1500~3500Hz)
英語は今の時代に必須の言語ですが、高音が全くカバーできていない状態です。
私が男性の声を頼りに60dBを超えるまで補聴器無しで頑張れたのは、日本語の周波数が低いからだったようです。
そして、低音が50dBを超えた時点で人の声も聴こえなくなりましたから、低音が聴こえていない人は50dBでも会話ができない可能性は高いと思います
ということは、今の計算方法だと、情報保障(コミュニケーション支援)が必要な人にフォローが行き届いていない可能性が非常に高いということになります。

そして、4000Hz以上の高音が早くからダメになった私個人が声を大にして言いたいのは、4000Hz以上を計算に入れない=聴こえなくても不便がないという考え方を通すのであれば、世の中の警報器や家電のお知らせ音などを2000Hz以下の設定にしてもらわないと、安全に暮らすことができないということです。(補聴器を装着しても4000Hz以上は聴こえないのですから)
私は今でも右耳は男性の声が聴こえるのに、中等度の時に すでに踏切の音がスピーカーのそばに立ってようやく聴こえる程度でした。
夏になると騒がしいセミの鳴き声、これに至っては 軽度の時から聴こえていません。軽度で大量に鳴いているセミの声が聴こえなかったのです。
低い周波数が混じらない音は全く聴こえないのです。
当然電子音は早くから消えましたし、家電が音を発していることも人から聞くまで知らなかったり、音の存在自体に気付いていないことも多いのです。
漫画に登場した会社員の方のオージオグラムは公開されていないので憶測になりますが、この方は計算に入らない250Hz以下が著しく悪いのかもしれません。
果たして500~2000Hz(しかも1000Hzは×2)という狭い範囲の数値だけを見て、その人の不便さを正しく判定できるものなのでしょうか?

漫画の中でWHOの基準では40dBから聴覚障害認定という話も語られていましたが、そもそも70dB以上というのは厳し過ぎる基準ですし、ましてや計算に使用する500~2000Hzというのは前出の通り日本語に必要な低音をカバーしきれていませんし、警報器や家電のお知らせ音を聴くためには4000Hz以上の聴力が必要です。
それなのに500~2000Hz以外は聴こえなくても正常だと言わんばかりの計算方法にはやはり問題があると思うのです。

聴覚障害は1人として同じ聴こえの人はいないので、基準は決めにくいと思います。
でも平均値で判断するのであれば、せめて日本人が普段の生活で必要としているであろう125~4000Hzの周波数は考慮すべきではないかと思うのです。
もしくは70dBという厳しい基準を50dBまで引き下げて 情報保障(コミュニケーション支援)が必要な人を救うようにするか、何がしかの対策は必要だと強く思いました。

第1巻では、自分とは異なる聴覚障害者のことを知ることができ、改めて耳のことを調べるきっかけとなりました。
第2巻も素晴らしいですが、長くなるので第2巻の感想は、後日改めて書きたいと思います。

※2巻・3巻の感想も読んでいただけると嬉しいです。
漫画「淋しいのはアンタだけじゃない(第2巻)」を読んで思ったこと
漫画「淋しいのはアンタだけじゃない(第3巻)」を読んで思ったこと

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漫画「淋しいのはアンタだけじゃない」全巻

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