難聴になって人の話をよく聞き返すようになると、「補聴器をしたら」とよく言われます。
「補聴器しているよ」と言うと「もっと良いのに替えたら」と言われることもあります。
これを言われると、少しでも聴こえるようにしようと、すでに片耳30~40万円台(両耳で70~90万円)の高額な補聴器を使っている私は “これ以上どうしろと言うのか・・・” と 悲しくなります。
ついでに愚痴ると、補聴器は精密機械ということもあって寿命が短くて、一般に5~10年が寿命の目安です。
一生物ならまだしも、一生の中で、何回も数十万円単位でお金が消えるというのは、庶民にとっては とてもきついです。
それでも少しでも聴こえを改善したいから 頑張って補聴器を買うのですが、残念ながらこれを装着したからといって 普通に聴こえるようになるわけではなく、健全な聴こえには程遠いです。
そこを誤解している人が多いので、今回は補聴器ユーザーが感じている補聴器の聴こえについて話したいと思います。
■補聴器をしても普通に聴こえるわけではありません
まず 多くの人が誤解しているのが、『補聴器を着ければ普通に聴こえる』ということです。
難聴にもいろいろあって、補聴器で解決する難聴の人もいます。
だけどそれはほんの一握りで、多くの難聴者は感音性と言われる音が狂っている難聴です。
音が聴こえても、聴こえる音が変形して正しくないので、言葉の聞き取りは悪いままです。
もちろん聴こえない音が入れば、それだけ情報は増えるので、全然効果が無いわけではありません。
だけど、健聴者が想像するような普通の聴こえには程遠いです。
メガネで例えると分かりやすいでしょうか。
近視の人がメガネをかけると像がはっきり見えるようになります。
補聴器も音の伝達機能だけの問題なら単純に音を増幅するだけで聴こえるようになります。
だけど多くの難聴者は内耳の機能が故障しているので音が歪みます。
これをメガネで例えると、メガネは度を合わせるとボヤッとしていた像がはっきりしますが、もしもその見えている像がぐにゃぐにゃに歪んでいたらどうでしょう。
ぐにゃぐにゃに歪んでいたら直線か曲線か分かりませんし、ぐにゃぐにゃに歪んで見える文字をすらすら読むのは大変そうというのは想像できるのではないでしょうか。
例としては、汚い手書き文字で例えた方が分かりやすいかもしれません。
何と書いてあるのか読めなくて困った経験のある人は少なくないと思います。
感音難聴の聴こえにくさとは、読めない文字を無理やり読むようなものなのです。
■音の高さによって聴こえる音量が違う
健康な耳の人の場合、周波数(音の高さ)が違っても、聴こえる音量は安定しています。
そのため、一般に難聴と聞くと、全体に音が小さくなる状態を想像する人が多いのですが、実際は全ての音が同じようにダウンするケースは稀で、大抵の場合は音の高さ(周波数)によって聴こえる音量が異なります。
極端に差のある難聴の場合、普段の生活音の中に、小さくても聴こえる音と、大きくても聴こえない音があったりするのです。
人の声の場合だと、低音が聴こえにくい人は男性の声が苦手だったり、逆に高音が聴こえにくい人は女性の声が苦手だったりします。
そして、当然、聴こえる周波数(音)のバランスが狂えば、聴こえる言葉の発音も狂います。
というのも、普段私たちが話す時に発している50音の1つ1つの音は、それぞれ複数の周波数で成り立っているからです。
ある特定の音を出すためには、その音に必要な周波数が揃う必要があります。
必要な周波数が揃うことで正確な発音になるので、必要な構成音の中から一部を抜いてしまえば、本来とは違う音に変化してしまいます。
感音難聴は、正常に処理できない音があるため、聴こえる言葉が崩れてしまう状態でもあるのです。
ちなみに、今のデジタル補聴器は(人間の耳に比べたら大雑把だけど)周波数毎の調整が可能になりました。
昔はよく聴こえる音が一部でも混じっている難聴者は、全音ボリュームアップしてしまう補聴器を装着することはできなかったのですが、周波数毎の調整が可能になったことで周波数差の大きい難聴者も装着可能になりました。
だけど、耳の機能を治せるわけではないので、壊れた音に聴こえる音は、壊れた音のまま増幅されます。
そのため、音は聴こえるようになっても、正常な音ではないために 聞き取れないということが生じてしまいます。
■内耳の細胞や神経の損傷が大きいと正常な音には聴こえない
私たちの耳は、外耳から入って来た音の振動を内耳の有毛細胞が捉え、それを信号に変えて脳に送っています。
感音難聴に多いのは、内耳の有毛細胞や神経が傷ついたことで、普通の音量では音に反応できなくなっているケースです。
※詳細はこちらを参照
↓
耳の有毛細胞の姿と働き
普通の音に反応できなくなった細胞の姿はボロボロです。
この傷ついた細胞に無理やり増幅させた音(強い刺激)を入れて反応させるわけですから、健康な耳と同じになるわけがありません。
怪我している人に無理をさせるのと同じですね。
大怪我と軽い怪我で体の負担が全然違うように、難聴も酷くなると、それだけ怪我状態が深刻ということになります。
細胞の破壊度が大きいほど 音に対する反応が鈍くなるので その分 強い刺激(音量)を入れますが、ボロボロの細胞に無理やり反応させた音は、大抵の場合 狂っています。
そして、狂った音を増幅したところで、正しい音ではないので、言葉の聞き取りには役に立ちません。
補聴器で音が聴こえるようになっても、言葉が聞き取れるようになるわけではないのです。
■不鮮明な音とはどんな感じ?
音の崩れ方は、人によって様々です。
難聴者は、1人として同じ聴こえの人はいないので、当然個人差も大きいです。
だけど共通点もあります。
感音難聴に共通するのは言葉の聞き取りにくさです。
なので、そのことだけでも知ってもらえたら有りがたいなあと思います。
ちなみに、難聴者が味わっているような聞き取れない状態は、健聴者にはありません。
難聴だけは、実際になってみないと分からないというのが、元健聴だった私の感想です。
強いて似ている例を挙げるとしたならば、初めて聴く外国語のヒアリングの聞き取りにくさが似ているかもしれません。
私たちが言語を聞き取るためには、発音を聞き分ける力が必要です。
普段馴染んでいる日本語には使ったことがない発音がたくさんあるので、普段耳にしない発音が多く混じっている外国語の聞き取りで苦労する日本人は少なくありません。
皆が体験するかどうかは分かりませんが、初めての海外旅行で、現地の人に話しかけられて、発音が全く聞き取れなくて困ったという経験はないでしょうか。
初めての言語を聞き取ろうとした時、小さな声で早口にまくし立てられても分からないので、ゆっくりはっきり発音して欲しいと思うのではないでしょうか。
その不鮮明な状態が永遠に続くのが感音難聴なのです。
健聴者なら繰り返し聴いている内に聞き取れるようになりますが、難聴の場合、音を処理する機能に問題があるので 繰り返されても聞き取れるようにはなりません。
聴こえることと、聞き取れることは別物なのだということを知ってくださったならば 今日の話の目的は達成です。
次回は言葉の聞き取り以外の不便について話したいと思います。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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ナンチョーな私の気まぐれ日記(17)「授業で私を当てないで」
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