私は進行性難聴で、今も聴力低下が止まりません。
私が難聴を発症したのは20代の時。
社会に出た時は、皆と同じ健康な耳でした。
発症時の難聴度は軽度。徐々に聴力が低下し、今は重度手前です。
ゆっくり進行したので、難聴発症後も仕事で電話はずっと取っていました。
今日は難聴のレベルによって、電話でどのように困ったのかの体験談を話します。
目次
■難聴発症時
難聴の有無に関係なく、慣れない電話の取り次ぎは緊張するものです。
難聴を発症する前は、最初こそ緊張しましたが、取り慣れると 電話の対応が楽しくて、わりと積極的に取っていました。何本も同時に取って並行処理する時などは、アドレナリンがガンガン出て、すごく燃えました(笑)
ちなみに今は時代が変わり、各自に携帯電話が支給される時代なので、電話の取り次ぎで地獄を味わった経験を持つ人は少ないかもしれません。
私が若い頃は、固定電話が主流なので、電話の取り次ぎだけでも相当な仕事量でした。
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私の難聴の始まりは、突然鳴り始めた耳鳴りからです。
音量も音質も非常ベルにそっくりな耳鳴りだったので、「火事だ!」と慌てて仕事を中断したほどでした。この煩い耳鳴りが24時間 鳴り止む気配がないので「耳鳴りを止めてください」と病院へ駆け込んだのが 耳鼻科とのお付き合いの始まりです。
病院に行くと、難聴を指摘されました。
その時の私は耳の知識はほぼゼロ。聴力検査の結果図(オージオグラム)を診ながら、医師が騒音性難聴の形状に似ていると言ったことしか覚えていません。
その時の私は難聴だという自覚はなく、耳鳴りが煩いから聴こえにくいとしか思っていなかったのですが、恐らく耳鳴りの高さの音に難聴が生じていたのだと思います。
ちなみに 私が早期に喪失した音は高音だったので、300~3400Hzの固定電話への影響は低く、発症直後は電話に不自由を感じることがなかったので、それまでと変わりなく電話を取っていました。
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当時の私の仕事は営業アシスタント。昼間は営業マンが全員外出するので、課の営業マンにかかってきた電話は全て私に回ってきました。
各自に携帯電話が支給される今の時代と違って、営業マンと連絡がつかないことも多く、納品遅れなどのクレームの電話が私の元にガンガンかかってくるわけです。
朝から晩まで受話器を耳に当てっぱなし。しかも怒鳴られるので、仕事が終わる頃には耳は疲弊。いつの間にか、夕方になると 長時間騒音に晒された後のように 耳が遠くなったような感覚が出るようになっていました。これを繰り返す内に、ある日突然大音量の耳鳴りを発症してしまったので、恐らく、私の難聴の引き金を引いたのは、電話のストレスだと思います。
その後、会社を辞めるまでの1年間は、同じように電話攻めの毎日が続きました。
その1年間は、よくかかって来る人の声をすでに覚えているので、特に電話で困ることはありませんでしたが、初めてかけて来る人の名称が聞き取れず、後で「さっきの人は何という会社名でしたか?」と確認することが増え始めていました。
■徐々に悪化
その後、私は小さな企画会社に転職しました。
営業職ではないので、電話の量は減りましたが、昔は 電話は女性が取るみたいな風潮が残っていたので、営業部で取り切れない電話は取っていました。
困ったのが、会社名の聞き取りです。一般的な想像しやすい会社名ならまだしも、造語の変わったカタカナ名称の会社が多かったので、これを聞き取るのは至難の業でした。
この頃は、まだ、前後の言葉で推測できる会話は 普通にできました。
走行中の車の中で、後部座席に座っていると、運転席と助手席との会話は体を前に乗り出さないと厳しくなっていましたが、静かな環境で困ることはなく、電話の会話も可能でした。
だけど、単純に発音を聞き取るだけの電話の取り次ぎには苦労しました。
この状態で電話の取り次ぎをどうやっていたかというと、よく電話をかけてくる人の場合は、声とイントネーション(名乗る時のリズムや癖)を覚えて、声で判断していました。
初めて取る電話で名称を聞き取れない場合は、最低でも会社名か担当者名かのどちらかは聞き取る努力をしました。
会社名が複雑なカタカナ名だと聞き返しても分からないので、その時はかけてきた人の名前の漢字を訊きました。すると、訊かれた人は「竹林のタケ」みたいに説明してくれるので、”あっタケと言ってるんだ” と分かるわけです。一部の音が聞き取れないだけの時は、そういうふうにして凌いでいました。
そして、電話を回した後に、取り次いだ人の所に行って「今の人の会社名を教えてください」と正確な名称を確認し、脳にインプットするわけです。
言葉が聞き取れなくなるまでは、そうやって、声と会社名を暗記することで対応していました。
■更に聴こえない音が増加
私の耳は、低音は正常に聴こえるのに、高音は完全失聴という極端な聴こえの状態を長らく続けていました。
進行とともに、高音から中音に向けて聴こえない音が増えていき、やがて、人の声が機械音に聴こえるようになりました。こうなると、人の声を判別できません。
声を覚えて取り次いでいた私は、更に追い込まれることになります。
その頃、私は中規模の会社に転職しました。
役付での入社だったので、まさか電話の取り次ぎをさせられるとは思っていなかったのですが、その会社は悲しい事に男尊女卑の名残が色濃く残っており、電話は女性が取るものという感覚が抜けきらず、女性がいると男性は電話を取りませんでした。(これを書いている私は女性なので、取らねばならない側の人間でした)
私のフロアの男性は特にひどく、鳴りっぱなしでも放置するので、仕方なく私は電話を取っていました。
この頃の私は、すでに声での判別はできなくなっていました。
長さとイントネーションだけが手がかりなのですが、かかってくる会社や人の数が多過ぎて、毎回違う人の電話を取るような状態では覚えられません。
聞き取れない私は、仕方なく「誰だか聞き取れなかったけれど電話です」と回すようになりました。しかも内線に他の人が出るとお手上げなので、取り次ぐ相手のいる部署まで走って行き、対面で聞き取れない旨を伝えねばならなかったので、電話が鳴るたび 針の筵でした。
■とうとう限界
その後、更に悪化し、全く聞き取れないということが増え始めました。
誰からかかってきたかが聞き取れなくても、誰にかけてきたかが推測できれば、そこに回すことができたのですが、その最後の砦だった誰に回せば良いのかさえ、全く聞き取れないということが増え始めたのです。
こうなるとお手上げです。
何度か聞き返して どうしても聞き取れない時は、近くにいる人に「全く聞き取れないので、聞いてもらえませんか」とお願いしなければならなくなりました。
頼まれた人は、すごく嫌そうです。
そりゃそうです。
最初に電話を取る方が遥かに楽なので、私もマジで「ごめんなさい」です。
そんな状態になっても「取らなくて良い」とは言ってもらえません。
なぜなら、電話で仕事の会話はしていたからです。
これは健聴者には理解してもらいにくいのですが、難聴者は推測で話を聞きます。どういうことかというと、発音を正確に聞き取れなくても、会話には前後があるので内容は推測できるのです。
勿論、難聴が進行すれば推測のレベルは落ちます。だけど、名称の聞き取りと違って、いきなりゼロにはなりません。言葉を正確に聞き取っていなくても 内容の理解さえできれば 会話は成り立つのです。
そんなんで、仕事の電話は、用件がはっきりしているから可能だったのですが、傍から見れば 普通に聴こえる人に見えるため、電話を取れない人だとは誰も思ってくれませんでした。
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聴こえも限界に達しかけていた頃、会社の人がかけてきた電話を取りました。
誰だか全く聞き取れない上に、誰を呼び出しているのかも聞き取れません。
何度も聞き返す私に「だれ?」と怒っている様子。
営業部の部長でした。
社内の人だと分かったので、自分の名を名乗り、「難聴悪化で聞き取れないのに、うっかり電話をとってしまいました」と、言い訳混じりに平謝りです。
電話を切る前に「二度と取らないようにします。すみませんでした」と、周りにも聴こえるように言い放ち、それ以来、私は電話を取るのを止めました。
■現在の私
現在の私は、基本的に電話は使いません。
少し前まで、ギリギリ会話が可能だった人の声も、今では音量が足りなくて、何を言っているのかさっぱりです。
どうしても電話が必要な時は、自分のスマホを使います。
今使っている補聴器は、スマホの電話の音声を補聴器に飛ばせるので、受話器を通すのと違って 音量は十分です。
但し、歪んだ音はそのままなので、電話を使うのは、聴こえない事が許される相手限定です。
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元々健聴で、軽度→中等度→高度、そして今は重度直前まで低下した私は、各段階の聴こえの悩みを味わってきましたが、難聴が軽くても「電話の取り次ぎが得意です!」という難聴者は恐らくいないと思います。
というのも、大なり小なり、多くの難聴者は音量だけでなく、語音明瞭度(50音を聞き取る能力)が落ちるからです。
音声会話が普通に出来るレベルの難聴者も、一語一句発音を正確に聞き取れているわけではなく、話の流れから、言葉を想像して聞いています。
なので、ヒントのある会話と違い、ヒントのない会社名の聞き取りは何倍も難しいのです。
一般には「電話ぐらい取れるでしょ」という感覚ですが、電話の取り次ぎは、難聴者にとっては最も難しいことなのだということを ぜひ知ってほしいと思います。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
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