【からだの豆知識「耳の有毛細胞」】
耳のことに興味を持ち始めると、内耳の中にある蝸牛という名称の器官の存在を知るようになります。
その中には、有毛細胞がビッシリと並んでいて、音を正確に聞き分ける仕事をしています。
この器官が正常に機能しているから、私達は会話や音楽を楽しむことができます。
この器官が少しでも損傷すると、感音難聴と言われる難聴になります。
音は聴こえても言葉が聞き取れないという症状に苦しむことになります。
蝸牛の機能は超精密です。
難聴者の聴こえを理解してもらうためには、耳の知識が必要なのですが、複雑な機能を説明するのはとても難しく、専門的な話になると拒絶反応を示す人もいます。
知識のある人も無い人も、参考になるのは実物の写真です。
私は写真で有毛細胞の姿を見てから、耳の機能をイメージしやすくなりました。
なので、この記事では、有毛細胞の姿を紹介したいと思います。
その前に「有毛細胞って何?」という人のために簡単に説明しておきます。
■難聴には伝音難聴と感音難聴がある
まず耳の機能について、難聴視点で語らせてください。
難聴には、音を伝達する器官の問題で起こる伝音難聴と、音を電気信号に変えて脳に送っている内耳の問題で起こる感音難聴があって、複雑なのは感音難聴です。
そして、多くの難聴者は感音難聴です。
一般に健康な耳の人が難聴と聞いて想像するのは伝音難聴の症状で、単純に音の大きさの問題だと思われがちです。
だけど、難聴者の多くが該当するのは感音難聴。
感音難聴は聴こえる音と聴こえない音の差が大きいのが特徴で、音は聴こえているのに、言葉が聞き取れないという問題を抱えています。
この感音難聴は、有毛細胞の損傷によって起こるものもあれば、神経の問題で起こるものもあり、損傷部位によって症状は違ってきますが、いずれの場合も言葉を正確に聞き取れないという問題を抱えることになります。
今回はその中でも、多くの難聴者に問題が生じている有毛細胞に着眼します。
■耳の有毛細胞の働き
有毛細胞は、耳の奥にある「蝸牛」という器官の中に整然と並んでいます。
耳に入った音が有毛細胞まで伝わるしくみについては、「耳が聞こえるしくみと難聴の種類」の中で説明しているので、そちらを参考にしてください。
→「耳が聞こえるしくみと難聴の種類」
蝸牛の中にビッシリ並んでいる有毛細胞には、それぞれ受け持ちの音(周波数)があり、自分の担当している音を電気信号に変えて脳に届けています。
その音を捉えるイメージについては、「耳は、音をどのように聞き分けているのか?」でも説明しているので、そちらも参考にしてください。
→「耳は、音をどのように聞き分けているのか?」
有毛細胞には「内有毛細胞(ないゆうもうさいぼう)」と「外有毛細胞(がいゆうもうさいぼう)」があります。
少し分かりにくいですが、下図(図1)で説明すると、コルチトンネルのそばに1列で並ぶ細胞が「内有毛細胞」で、この細胞は3,500~3,600個あり、入って来た音の情報を脳に伝える役割を担っています。
そして、右側に3列並んでいる細胞が「外有毛細胞」で、約12,000個あります。この細胞は、微弱な音は増幅し、大き過ぎる音は抑制する働きを持っていて、音の検出感度を高める役割を担っています。
騒がしい環境でも会話を聞き取ることができるのは、外有毛細胞の機能のおかげでもあります。
ついでにもう少し詳しく説明すると、音の刺激で基底膜が振動すると、下図(図2)のように 外有毛細胞の頭部に生えている聴毛にずり運動が生じて、聴毛が曲がります。
すると、これに反応して有毛細胞は動的に長さを変え、波の振幅を増加させます。
さらに内有毛細胞の聴毛が曲がると、その基底部にグルタミン酸が放出されて、この物質の放出によって求心性神経線維が興奮して、それが脳に伝達されます。
■損傷を受けた有毛細胞の姿
難聴が皆同じ状態ではないということは、言葉で説明するより、有毛細胞の損傷状態を写真で見た方が分かると思います。
下記の3枚の写真は、障害を受けた外有毛細胞の姿です。
写真はモルモットのもので、実験結果を示す写真ですから、日常でこうなるというものではありません。
ここで知ってもらいたいことは、原因や状況によって、有毛細胞の傷つき方は様々で、また傷つく箇所も様々で、それは全て聴こえ方に影響するということです。
写真で一番分かりやすいのは、下(写真①)の衝撃音で島状にゴソッと一部が消失してしまった写真です。
本来並んでいるはずの聴毛が無くなってしまっているのが分かります。
破壊的なレベルで入って来た衝撃波による振動が大だった部分が被害を受けています。
正常な細胞と破壊された細胞の境界がこれほど明瞭なケースは、一般には稀だと思いますが、異常な衝撃音に晒されると、有毛細胞は一気に破壊されます。
下の写真(写真②)は音響外傷の例ですが、正常に生き残っている細胞は僅かです。
かなりの大音量を聴かせ続けての結果なので、音響でここまで酷い状態になるケースは多くないと思いますが、長期間騒音環境にさらされている職業の人は、じわじわとこの状態に近づいている可能性はあります。
実際に長期間騒音に晒されたことで難聴になる人は少なくありません。
そして、(写真③)は薬物投与の例です。
所々が斑点状に損傷しています。
こういう難聴もあります。
この3枚の写真を見比べると、細胞の破壊の状態が違うことは一目瞭然です。
破壊された状態が違えば、当然に聴こえ方も違います。
有毛細胞の破壊のされ方によって、聴こえ方にも違いが出るのだということを知ってほしいと思います。
■有毛細胞の再生医療に期待
難聴人口は年々増えています。
その中でも 有毛細胞が傷ついて難聴になっている人は多いと推察されます。
高齢者の難聴も外有毛細胞の消耗によるものが多いです。
有毛細胞は一度損傷すると自己再生しません。
今は失った細胞の役割を人工内耳でカバーすることもできますが、手術で体内に装置を埋め込むのでリスクはあります。更に、体外装置とセットでないと機能しないので、装置を外せば聴こえないし、頻繁に充電も必要で不便です。
おまけに聴こえる音が元通りになるわけではないので、やはり再生できるのが一番良いのですが、今はまだ再生させる治療法はありません。
だけど、研究はされています。
たとえば有毛細胞の周囲には支持細胞があるのですが、この支持細胞は有毛細胞が消失した後も残存しているそうで、この支持細胞を刺激することで有毛細胞を再生させるなど、期待できそうな研究もあります。
もしも有毛細胞を再生することができたならば、多くの難聴者が救われることになります。
今後の医療の進歩に期待したいと思います。
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