<健聴者の方へ> ゲーム感覚で気楽にできる 【感音難聴の聞き取りストレス体験】 =聞こえているように見えても、殆どの情報は難聴者には届いていません=

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からだのエッセイ

からだのエッセイ 第3回

皆さんは、感音難聴(カンオンナンチョウ)という名称をご存知でしょうか。
難聴にも、いろいろ種類があります。
よく使う分類は、「伝音難聴」と「感音難聴」、そして両方が混じっている「混合難聴」。
この中で、感音難聴(混合難聴含む)は音が聴こえても、聴こえる音がひずんでいるので、言葉を聞き取るのがとても難しい難聴です。
聴こえのメカニズムや難聴のことは、また別の記事で書きます。
ここでは、聞き取れないということがどういう状態なのかを健聴者の方に想像していただけるよう、ちょっとした疑似体験を考えてみたので、それの紹介をしたいと思います。

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難聴者に会ったことがない方もいらっしゃると思いますので、少しだけ難聴者の日頃の悩みをお話させてください。
難聴者はよく聞き返します。聞き間違うことも多いです。
その時の健聴者の反応で 結構多いのが、責めたり、無視したりすることです。
殆どの場合、健聴者に悪気はなく、忙しいので 結果としてそんなふうになってしまうのだと思います。
ただ、不親切になりがちな要因の1つに、耳が悪いということが、近視の人が眼鏡を掛けたら見えるようになるのと同じぐらいに思っている人が多いというのはあると思います。

私も日頃、会話をしていて聞き返したりすると 「補聴器付けたら」と言われたり 「補聴器のボリュームを上げろよ」と言われたり、そんなことがしょっちゅうです。
だけど、私の耳にはすでに片耳だけで50万円もする高性能の補聴器が装着されていますし、ボリュームだって聞き取れる限界の音まで上げて 必死で聞いているので、これ以上どうやって努力をしろというのかと途方に暮れてしまいます。

感音難聴というのは 聴こえる音が壊れているので、高性能の補聴器で調整しても、聴こえる音は 正確な音には ほど遠いです。
そして、ボリュームを上げ過ぎたら壊れた音が頭に響いてとても聴ける状態ではなくなってしまうので、ボリュームアップにも限界があるのです。
補聴器を付ければ 元の聴こえを取り戻せるという誤解によって、難聴者はかなり辛い思いをしながら生きています。

そこで、感音難聴者が 普段 人と会話をする時に、どれぐらい大変な思いをしながら話を聞いているのか、せめてそれだけでも体感してもらう方法はないかと考えてみました。

もちろん、健聴者の皆さんは 50音が正確に聴こえるので、全く同じ体験をしていただくことはできません。
だけど、なかなか聞き取れないストレスがどのようなものなのかは、話し手の発音を不鮮明にすることで、多少でも味わっていただけるのではないかと思っています。

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【やってみよう!「聞き取れない」ストレス体験】
まず、話し手と、聞き手の役を決めます。
聞き手は1人でも良いし、数人で聞いていただいても構いません。
話し役は、唇から音が漏れないように、唇を閉じた状態で話してください
聞き役は、話し役が何と言っているのか聞き取ってください。
最初は何かを取ってもらうとか、何かをしてもらうなど、簡単な要望を出してみましょう。
慣れてきたら、質問をしたり、今日の出来事を話したり、思いつくままに話をしてみましょう。

唇をしっかり閉じた状態で喋ると、はっきりした発音は作れませんから、イントネーションやリズム、相手のジェスチャー等を手掛かりに聞き取ることになると思います。
腹話術で話すのはNGです。
聞き取れないストレスを体験していただくゲームなので、話し手は しっかり唇を閉じてください。
少し難しいですが、その状態で口の中は自由に動かしてください。
どうしても口の中を動かせないという人は、口の中を少し膨らませて、唇から空気が漏れないように 指で唇を挟んで話してみてください。

すると、何となく言葉っぽくなるものの、聞く側は 何度も聞き返さないと分からなかったり、予想外の話だと さっぱり分からなかったりすると思います。
聞き取らねばならないのだという設定で、聞き取れるまで頑張ってください。
唇がしっかり閉じられた状態ならば、ゆっくり話してもらったり、何度も繰り返し話してもらうことはOKです。
違う言葉で表現して欲しいと頼んでも構いません。
相手の要望が理解できるまで頑張ってみましょう。
言葉がはっきり聞き取れないので、「何」の話、「誰」の話というのが分からないと、言葉が浮かばなくて困りませんか?
「何」の部分を間違える(例えば「家」の話をしているのに 「犬」の話だと勘違いしてしまう)と、全く違う言葉が浮かびませんか?
聞き取るためにかなり集中しなければならないということや、脳内で言葉を推測する大変さなどを味わってください。
どうしても聞き取れない時に、せめてヒントだけでも 紙に書いて欲しいと思う気持ちも感じてもらえるのではないでしょうか。
これが感音難聴者の日常です。

これは極端だと思われる方もおられるでしょう。
ところが、感音難聴の酷い人の聴こえとは こんなものなのです。(※勿論、軽いか重いか、内耳のどこが障害されているかによって同じ感音難聴者でも聴こえに差はあります。)

大抵の難聴者は話し手の口の動きを見たがります。
それは聴こえる音が正確ではないので、口を見ないと言葉を推測できないからです。
今回の体験方法では「口の動き」という大きな情報が無い状態で聞き取っていただくことになるので、普段の難聴者よりも その点は不利な条件で聞いていただくことになります。
但し、日常の生活では「口の動き」を見ることができたとしても、全てが普通のスピードで会話が飛び交いますので、難聴者の神経は休まることがありません

更に付け加えると、健聴者は音をクリアに聴くことができるので、不鮮明な発音でも それなりの音の特徴を捉えることができます。なので、耳がすごく良い人ならば練習を重ねる内に、音を聞き分けることができるようになるかもしれません。
しかし、感音難聴の人は 音を伝える感覚細胞や神経が障害されて聴こえなくなっているので、練習をしても 今以上に聞き取れるようになることは決してありません

もしも、ずっと、この聞き取りにくい状態が続くとしたら、どんな生活になるか想像して欲しいのです。

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[おまけ体験]

複数の人がいるならば、ついでにグループでの会話体験もしてみてください。
今度は、話し役が複数、聞き役は1人の設定です。
話し役は前もって話の内容を決めて会話をしてください。(話し手同士が聞き取れない状態では会話が成立しないので)
メモに会話文を書いて、それを読んでも構いません。
今回も、話し手は、唇をしっかり閉じて話してください。
聞き役は、話に参加するように頑張ってみてください。
次々話が飛び交うと、会話に追いつけず 聞き返すタイミングがないことに気付いていただけるのではないでしょうか。
何の話をしているのかが分からなければ、聞き返すこともできないまま、会話を諦めざるを得ないということも知っていただけるのではないでしょうか。

これはゲームですから、聞き取れなくても、気を遣うことはないでしょう。
だけど実際の生活の中では、自分のために会話をストップさせることもできず、話が全く分からないので立ち去って良いのかのタイミングさえも見出せず、難聴者は 皆の顔の表情に合わせて 聞いている振りをしながら様子を見ることになります。
これは場を白けさせないための難聴者なりの必死の気遣いなのですが、よく考えてみると無駄な事にエネルギーを費やしていますよね。だけど音声会話でのコミュニケーションを失った難聴者にとっては、これは人と繋がり続けるための必死の行動なのです。
そう言うと「遠慮なく聞き返せばいいのに」とおっしゃる方がいますが、難聴者の聞き返しは、健聴者の聞き洩らしによる聞き返しとは違って、同じ言葉を繰り返されても聞き取れないことが多いのです。すると「もういい」とか「大した話じゃないから」と言われてしまうので、そのたびに傷つき、だんだん聞き返す勇気がなくなります。そして、やがては 聞き返すことを諦めるようになります。

一番困るのは、話の中に大事な通達事項が混じっている時です。
聞き返すと「大した話ではない」と言うのであれば、大事な話の時には注意を促してくれても良さそうに思うのですが、現実は同じトーンで話が流れて行くので、結局大事な話をしていたことにさえ気付くことなく、後で「この前 話したのに聞いていなかったの!」「聞こえなかったなら、もう一度聞いてくれればよかったのに」など、途方に暮れることを言われてしまうのです。

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今回、ご紹介した方法は、不鮮明な人の声を聞くことで、音として聞こえたとしても 言葉として解読するのは困難だということを体験していただきました。
難聴者の聞いている音(言葉)とは少し違いますが、難聴者も同じく音として聞こえても、言葉として正確に聞こえているわけではありません。それに加えて 難聴者の場合は全ての音が聴こえているわけでもありません
勘で必死に聞き取ろうと頑張りますが、それには限界があり、聞こえているように見えても殆どの情報は届いていません。そして難聴者本人は 聞き取れているつもりでいることがありますが、実際は話の内容の多くが認識されることなく抜け落ちています話の存在自体に気付いていないのです。
何が聞こえていないのか難聴者には分からないため、こんなに聞こえていませんと伝えることもできず、見た目ではここまで聞こえていないようには見えませんから、障害を理解してもらえず苦しんでいる人がとても多いです。
なので、難聴者の多くは大なり小なりこのような状態であることを、ぜひ知っていただきたいと思うのです。
早い話、大事な話は 伝わったかどうか面倒でも確認していただけたら有りがたいし、文字にして伝えるなど配慮していただけたら すごく嬉しいと思うわけです。

健聴者の皆さま、ぜひ一度 聞き取れない世界を体験してみてください。

※この体験方法は 漫画「淋しいのはアンタだけじゃない(第2巻)」を読んで思ったこと の中でも紹介しました。そこでは この他に 聴こえない人と聴こえる人の音圧の差のことなどにも触れていますので、難聴の理解にぜひそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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